引きこもり婚始まりました〜Reverse〜
屈辱を味わうことすら厭わなかったのか、そんなつもりもなかったのか。
どちらにしても、そんな覚悟ができるほど愛した女性だったのなら、どうして彼女をぞんざいに扱った?
好きで可愛いという気持ちを抱くのなら、どうしてそんな存在を大切にしないでいられる?
それとも春来や他の男どもは、その他大勢にもそんな気分になるから、彼女一人分に愛情を換算するとものすごく減ってしまうんだろうか。
「……苦し……? ごめん……」
「……そ、それはそんなに苦しくない……けど」
「ほんと? よかった。でも、ごめんね」
女神様を苦しめるなんて、あってはならないことだというのに。
「我慢するのは慣れてたはずなのにね。君のせいで、ちょっと無理になっちゃったかも……それって、すごい幸せ。なんか、ごめん」
「あ、謝らなくていいです……そ、それはそうとして……!! 」
まだ傾いた俺の顔からは逃げないくせに、全然力の入ってない手が胸を押し返そうとする。
「今更そんなことしなくても、私は優冬くんのめ……違う、奥さんなんだからね。牽制不要!! 」
酸欠と羞恥でおかしくなってるめぐも、破壊的に可愛い。
春来は俺が女神様を壊したと言ったが、これもまた幸せなことに、寧ろ壊されたのは俺の方だ。
「……お義兄さんも、いい加減にしてくださいね。これ以上、どうゴシップにするつもり」
「たまには顔見せたっていいだろ。それに、金持ちにゴシップは付き物だ。実際なくたって、いつの間にか誰かに勝手に作られてるもんなの。だったら、気を遣うだけ無駄、やりたいことはやった方が得。諦めろ」
「めぐには最大限に気を遣えよ。そしたら、顔を見せるなんて選択にはならないだろ」
俺様なんて表現、春来にはただの自己中なだけだ。
ぎゅっと抱きしめて彼女の目と耳を塞いだけど、女神様用じゃない俺の声はしっかり届いてしまったらしい。
「もう自分でこてんぱんにできるから、へいき……」
「もうナイトも信者も不要? そんな寂しいこと言わないで」
「……彼氏兼旦那さんはいてほしいけど……」
やっぱり、俺はどこかまだ頼りないんだろうか。
それとも、兄弟に挟まれて奪い合われるのは、他の男との三角関係よりもずっと重い――……。
「〜〜って、だから……!! 二人ともなんで忘れてるのか謎だけど、私結婚したんだよ。不倫も離婚もしません。以上、解散!! 」
そこまで一気に喋り切り、唐突に解散を宣言したと思ったら、俺とクズの間をすり抜けていこうとする小さな身体を捕まえる。
「待って。一人でどこ行くつもり? 」
「か、帰る」
(嫌だな、忘れてなんかないよ)
女神様は天空から降り立ったのだ。
いろいろあっただろう。
傷ついたこともたくさんあって、彼女自身が忘れてしまったり、気づいていないこともある。
それでもそんな世界に留まってくれるのは、今ではきっと俺の為。
「めぐこそ忘れてない? 彼氏兼旦那さんの俺は、帰る家同じだよ。よければ、俺の車で一緒に帰らせてほしいけど」
「……忘れてない」
なぜか拗ねるめぐは、やっぱりこの汚れた世界にいる他の生物とは何もかも違う可愛さがあって――……。
「二人とも聞いて。私、今幸せだから」
――男なんかには流されてくれない、強さも持ち合わせている。
(……知ってる。だからこそ好きになったし、堕ちないからこそ春来も躍起になって落としたがった)
つまりそれは、認めようと否定しようと、春来もまたどこかで彼女の神聖さを感じ取っているはずなのだ。
そう、だから――……。
「……そっか。じゃあ……」
だから、希わずにはいられない。
「……もっと幸せにする機会を、俺に頂戴」
――と。