引きこもり婚始まりました〜Reverse〜
何度も言うが、引きこもりの日数が増えるほど仕事は溜まる。
「お疲れさま」
「君こそ」
たとえそうでも、彼女とだけ過ごす日々は何にも代えられないほど至福で――それを言うなら、家に帰れば彼女と二人きりの時間が来るという幸福は、彼女に召されて天界に昇ったみたい――……。
――いや。
「私は大して……っ」
――女神様を、俺は地上に縛りつけた。
「仕事に加えて、俺を癒してくれる。疲れるでしょ」
「……つっ、疲れてないよ……! 」
会社ですら手放せないくせに、家に帰ればより求めてしまう。
今夜もまた、捕まえた手首に口づけると彼女の声が上擦る。
そのままこっちへ引き寄せれば簡単に傾いてくれるのは、軽いからというのももちろんあるけれど。
「……私だって、優冬くんに癒されてるよ」
彼女が意図的に、身体の力を抜いていてくれるから。
それが俺にとって、どれほど幸せを感じられるか。
「なら、いいんだけど……。この前うちの親と食事した時も、それこそ会社でもいろいろ言われるじゃない。……ごめんね、俺のせいで嫌な思いさせて」
結婚したらしたで、ハラスメントであり余計なお世話なことを言われたり聞かれたりする。
忠告はしていても、俺がいないところでめぐが不快な思いをしているかなんて明白だった。
「ううん。うちの両親だって、言わないだけで孫は見たいだろうし……その、約束はできないけど、私も……」
「めぐが約束しなきゃいけないことじゃないよ。でも、ありがとう。……すごく嬉しい」
(……プレッシャーかけすぎだ。また締めとかないと……)
「あ、その意外って顔。いつまでも君を独占してたいって言うと思った? そりゃ、そう思ってるけど……でも、めぐとなら家族増えたら嬉しいよ。もちろん、いつでもいいんだ。君の準備ができたら、いつか……」
いつか、彼女が望んでくれたら。
「……わ、私だって。優冬くんならって思って付き合ったし、結婚したし、憧れもあった。それを一緒に叶えられるのは、優冬くんだって思ってる。い、一回間違ったじゃないかって言われるとあれだけど、でも今は……っん……」
心からそう思ったし、待ちたいって気持ちもあったのに。
「君は間違ってなんかないよ。……何も」
握ったままだった手を細い手首から離して、もう片方とともに柔らかな頬を包む。
「ありがとう。俺を受け容れようって、こんなに一生懸命になってくれて。何もかも、感謝してる。めぐの存在自体、すごいことなのに」
「また壮大な……う、そ、それはアレって思うことがないとは言わないけど、頑張ってるつもりない。ただ好きなだけ……」
「壮大って」
もう一度唇を奪うと、掌の温もりが一気に増した。
「好きなだけ……ね。それが一番あり得ないし、最高に幸せなことだよ」
この世は、愛だけじゃ乗り切れないことが多すぎる。
それなのに、こんな俺の為に彼女はそれを理由にしてくれるから。
「……ばか。あり得るの」
「そう? ……ん。君がそう言うなら、そうかも」
「かもじゃなくて、そうなんっ……っ」
指先を滑らせる余裕もなく、するりと掌が彼女のくびれのラインに到達する。
彼女にしたら、あっという間もなく裾を割って直接肌に触れられた感覚に違いなかった。
(……やばい。まだソファなのに、可愛いすぎて理性死んでる)
「ごめん。乱暴だから嫌だって言ったけど、やっぱりしてもいい? 」
「何の話……? 」
いきなり立ち上がった俺に不安そうに、でもしっかり見上げてくる彼女が愛おしい。
安心してほしくて髪を梳いたけれど、果たして安心材料になってくれるかどうか。
「お姫様抱っこ」
「……!! …………ダメ」
ものすごく迷ったみたいだけど、案の定彼女はふいっと目を逸らしてしまった。
「えー……。どうしても? だめ……? やだ、お願い」
「いっ、いちいち聞くからだよ……!! 」
笑って抱き上げると、めぐは思った以上に素直に腕を伸ばしてくれた。
(……ありがとう)
ほんのすぐそこの目的に到着したら、またキスしてしまうに決まってる。
それでも、今すぐ伝えたくて。
――どんなに罪深くても、奪わずにはいられないんだ。