引きこもり婚始まりました〜Reverse〜
言われてしまった。
しかも、俺のプロポーズよりもずっと格好いい。
「……も、もう。私は真剣に……」
(……あーあ、完敗。まあ、そんなの最初からだけど)
笑った理由は彼女の想像とは全然違うけれど、俺らしくなく声に出して笑ってしまったものだから、めぐはきょとんとしたり、憮然としたりと忙しい。
「分かってる。……そうだね、じゃあ……お任せしてもいい? 」
それに、怒ったふりをした後にふにゃっと可愛く笑ったり――途端に、真っ赤になってみたり。
「な、何を」
「やだな。めぐが言ったんじゃない。幸せにしてくれるって。俺はめぐを幸せにするのに全集中してるから、俺の幸せについてはめぐに任せる。そうだな、完全お任せコースを希望したいけど、それってさ」
――ね、どんなコトしてくれるの?
「可愛い」
ほんのり熱を保っていた身体が、また火照り始める。
彼女の体温を感じて無意識に出た言葉はいつものそれで、声は再び掠れてしまった。
「〜〜っ、コース制にした覚えはな、」
「あ、そうなんだ。じゃ、メニュー内容教えて。とりあえず、それ最初から全部お願い……」
「……全部だったら、メニュー言う必要ないじゃない……っていうか、何メニューって」
呆れながらも、胸にすり寄ってくるの可愛い。
頭を撫で、髪を梳いて、途中で見つけた耳をそっと辿ると、くすぐったそうに身動ぎをするのも。
「冗談。本当はね、何だっていいんだ。君が側にいてくれて、こんなに愛してくれて。俺はもう、この世にいないんじゃないかってくらい、幸せ」
「……優冬くん」
納得していない時の、その悲しそうな顔も愛しい。
どうしたらもっと伝わってくれるんだろうと悩む様子は、毎回申し訳なく思うと同時に俺を満たしてくれる。
「昔も幸せだったけど、比べものにならないくらい今の俺はもっと幸せ。それが毎日更新されてく。本当にありがとう、めぐ」
「……ん……」
だから、俺からも、もっとたくさん伝わりますように。
(……涙)
唇を重ねる間際、無意識に強張ったのを緩めてくれる瞬間が好きだ。
それだけで本当に本当に、幸せ――心からそう思うのに、その柔らかさに酔ってもっとを望んでしまう。
女神様はそれすら受け容れようとして、背中に腕を回してくれたのを感じると止まらなくなる。
そんな衝動がただの欲ではないと、証明したがるように身勝手な雫が頬を滑った。
「……変だな。辛いことなんて、もう何もないのに」
「ううん。……大切にしてくれて、こちらこそありがとう」
夢なんて、もう見なくて済む。
だって、この現実の方が幸せになったから。
「俺に愛されて、受け容れて……そのうえ君がお礼なんて言ってるのみたら、春来は絶望するかもね。壊された、って」
「私のことなんて、もう忘れてると思うけど」
めぐは分かってない。
あのクズは、彼女を幼なじみでも女性としてもクズなりに想っていたってこと。
女神様が俺のもとへと堕ちてきてくれて、腕に収まったままでいてくれるどころか、こうして自分から俺を引き留めてくれる。
――彼女を愛するものにとっても、受難、なのだろう。
「どうだろ。君の素晴らしさを、そうそう忘れられるかな。俺には無理だけど」
「幼なじみ」なんてこの世にありふれた定義を、俺には彼女に当てはめることは二度とできない。
「……う、そ、それはなんというか、お互いさま……」
恋人であり、妻――それも、人前では使うけれど、心のなかではやっぱり違うのかも。
「そう? よかった。休みにもっと引きこもりたいって思えるくらい、堕落してくれたらいいのに。……頑張るね」
――俺の女神様。
そう、君は女神様なんだよと、軽く食みながら耳に流し込む。
「だ、堕落するのは嫌」
「えー……。ベッドの上の新婚さんなのに。そんな現実めいたこと言わないで」
どもりながらも、そこははっきり言い返してくるのはめぐらしいし、そんなところも大好きだ。
(間違えた。ぐずぐずにしちゃってから言えばよかった)
それだって、正気に戻ってしまえば普段の彼女だが。
しっかりした女神様ももちろん好きだけれど、ちょっと惜しいことをした――……。
「……で、でも。忙しい優冬くんがお休み取ってくれて、こうやって過ごすのは楽しみにしてる……ようになってしまいました……」
――ことも、なかった。
「完全に俺が求めてると思ってたのに、何それ。……女神様すら通り越した可愛い生物が、俺を壊してくんだけど。え、いきもの……だよね。生きてるよね。尊すぎて、それすら分からなくなってきた」
「い、生きてるに決まってるでしょ……! 」
ああ、でもよかった。
俺の幾億分の一でも、彼女も欲しがってくれているなら。
「……今日、有休にしよ。ね、そうしよ」
「〜〜サボりはダメですからね……っ!? 」
声のボリュームのわりに、抵抗らしい抵抗はない。
拒めないと諦めているのか、彼女の優しさだとほんの一瞬前までなら思っただろう。
「楽しみは、何度あってもいいよね」
(可愛いこと言ったりしたり、延々するからいけないんだよ。何もしてなくても可愛くて堪らないのに、今朝の君は……)
――可愛いすぎて、君を愛する以外もう何もできなくさせる。
と、いうわけで。
引きこもり婚の始まり(再)、確定。
【女神様の受難・おわり】


