早河シリーズ第一幕【影法師】
『香道さん、なぎさちゃんのこと心配していたよ』
「兄はシスコンなんです。いつまでも私のこと子供扱いして」
『ははっ。まぁ多少はシスコンだなと俺も思うよ。でも俺も気になっていたんだ。あの時一緒にいた君の彼氏……結婚してる人だよね?』
なぎさは溜息をついて苦笑した。
「兄も早河さんも凄いですね。あの時、彼は結婚指輪を外していたのにどうして既婚者だってわかったんですか?」
『刑事の勘かな。普段から色んな人間見てるから』
「刑事の勘は怖いなぁ」
なぎさの左手薬指に指輪はない。ホテルから出て来た男が既婚者であるなら、彼の妻はなぎさではない。
「私、出版社で働いていて……」
『じゃあ同じ会社の?』
「彼は会社は違いますけど同業者です。大学時代から出版関係のバイトをしていて、業界のイベントの手伝いの時に彼と知り合いました。奥さんがいるのはわかっていたのに就活の相談に乗ってもらってるうちに好きになっちゃったんです」
『そっか。今もまだ付き合ってるの?』
早河の問いになぎさは首を縦に振る。
人の恋愛に口を挟むほど早河はお節介ではない。誰が不倫をしようが浮気をしようが所詮は他人事だ。いつもなら傍観していただろう。
なぎさは先輩刑事の妹、自分とはただそれだけの繋がりなのに早河はなぎさをほうっておけなかった。それはきっと2ヶ月前の渋谷で反抗するなぎさを見送った香道の寂しい眼差しを見てしまったからだ。
「あれから兄とは全然話をしてなくて……。たまに兄が家に帰って来てもシカトしてしまうんです。彼とのことちゃんと話さなくちゃとも思ってはいるんです。不倫なんて自分は絶対にしないと思っていたのに最低ですよね」
『なぎさちゃんは人を好きになっただけだよ。たまたま好きになったのが相手がいる人だったんだ。悪いのは結婚していながら君と付き合う男の方だよ』
なぎさを責める気はない。責められるべきは妻がいる身でなぎさの好意を利用する男だ。
なぎさは今度は泣きそうなくらい弱々しい笑みを見せた。いや、すでに彼女の瞳の奥は潤んでいた。
「早河さんて優しいですよね」
『彼女にはよくドS刑事と言われるよ』
「ふふっ。早河さんが彼氏だなんていいなぁ。彼女さんが羨ましい」
綺麗にマスカラが塗られたなぎさの目元にはメイクでは隠し切れないクマが目立っていた。不倫男のことで相当悩んでいるのかもしれない。
「彼と別れたら私から兄に話します。だからそれまで兄に、このことは……」
『うん。香道さんには黙っておくよ。ちゃんとなぎさちゃんから話してあげて』
「はい。……あの、早河さん。兄はあれでけっこう無茶する人なんです。めちゃくちゃ真面目だから一度爆発すると無茶するって言うか……弱音も吐かなくて。だから兄のことよろしくお願いします」
香道に反抗していても本当は兄を思いやる優しい妹だ。早河には兄弟がいない。香道のような兄のいるなぎさが、なぎさのような妹がいる香道が、羨ましく思えた。
『こちらこそ俺の方がいつも香道さんに世話になってるからどこまで頼りになるかわからないけど……』
早河となぎさは笑い合った。
「兄はシスコンなんです。いつまでも私のこと子供扱いして」
『ははっ。まぁ多少はシスコンだなと俺も思うよ。でも俺も気になっていたんだ。あの時一緒にいた君の彼氏……結婚してる人だよね?』
なぎさは溜息をついて苦笑した。
「兄も早河さんも凄いですね。あの時、彼は結婚指輪を外していたのにどうして既婚者だってわかったんですか?」
『刑事の勘かな。普段から色んな人間見てるから』
「刑事の勘は怖いなぁ」
なぎさの左手薬指に指輪はない。ホテルから出て来た男が既婚者であるなら、彼の妻はなぎさではない。
「私、出版社で働いていて……」
『じゃあ同じ会社の?』
「彼は会社は違いますけど同業者です。大学時代から出版関係のバイトをしていて、業界のイベントの手伝いの時に彼と知り合いました。奥さんがいるのはわかっていたのに就活の相談に乗ってもらってるうちに好きになっちゃったんです」
『そっか。今もまだ付き合ってるの?』
早河の問いになぎさは首を縦に振る。
人の恋愛に口を挟むほど早河はお節介ではない。誰が不倫をしようが浮気をしようが所詮は他人事だ。いつもなら傍観していただろう。
なぎさは先輩刑事の妹、自分とはただそれだけの繋がりなのに早河はなぎさをほうっておけなかった。それはきっと2ヶ月前の渋谷で反抗するなぎさを見送った香道の寂しい眼差しを見てしまったからだ。
「あれから兄とは全然話をしてなくて……。たまに兄が家に帰って来てもシカトしてしまうんです。彼とのことちゃんと話さなくちゃとも思ってはいるんです。不倫なんて自分は絶対にしないと思っていたのに最低ですよね」
『なぎさちゃんは人を好きになっただけだよ。たまたま好きになったのが相手がいる人だったんだ。悪いのは結婚していながら君と付き合う男の方だよ』
なぎさを責める気はない。責められるべきは妻がいる身でなぎさの好意を利用する男だ。
なぎさは今度は泣きそうなくらい弱々しい笑みを見せた。いや、すでに彼女の瞳の奥は潤んでいた。
「早河さんて優しいですよね」
『彼女にはよくドS刑事と言われるよ』
「ふふっ。早河さんが彼氏だなんていいなぁ。彼女さんが羨ましい」
綺麗にマスカラが塗られたなぎさの目元にはメイクでは隠し切れないクマが目立っていた。不倫男のことで相当悩んでいるのかもしれない。
「彼と別れたら私から兄に話します。だからそれまで兄に、このことは……」
『うん。香道さんには黙っておくよ。ちゃんとなぎさちゃんから話してあげて』
「はい。……あの、早河さん。兄はあれでけっこう無茶する人なんです。めちゃくちゃ真面目だから一度爆発すると無茶するって言うか……弱音も吐かなくて。だから兄のことよろしくお願いします」
香道に反抗していても本当は兄を思いやる優しい妹だ。早河には兄弟がいない。香道のような兄のいるなぎさが、なぎさのような妹がいる香道が、羨ましく思えた。
『こちらこそ俺の方がいつも香道さんに世話になってるからどこまで頼りになるかわからないけど……』
早河となぎさは笑い合った。