早河シリーズ第二幕【金平糖】
12月15日(Mon)

 東堂孝広の死が今朝のニュース番組で報じられた。番組内で中継が繋がり、道玄坂二丁目のあのビルがテレビに映し出される。
有紗はなぎさが作ったタマゴサンドを食べながらテレビを見つめていた。

「タカヒロさん、前に好きだった人なの。でも、もういいんだ。あれは恋じゃなかったって今なら思える」

タマゴサンドの最後の一口を食べた有紗はごちそうさまでした、と言って席を立った。

 タカヒロの訃報の話題に関連して、彼が売春組織に関与していた疑いであのビルに警察の捜査が入っていたことも報道されている。

タカヒロと共に殺された21歳のダイニングバーの女性従業員の名前は飯田未菜《いいだ みな》。
有紗には心当たりがない名前だ。殺されたのが有紗の知り合いの店員ではなくて、正直ホッとした。

「有紗ちゃん本当に平気? 学校休んでもいいんだよ?」
「大丈夫。ちょっとびっくりしたけど本当に平気だから。いってきまーす」

 聖蘭学園の制服に身を包み、有紗はなぎさの家を出た。
ここから地下鉄の四谷三丁目駅までは徒歩数分。聖蘭学園の最寄り駅の外苑前駅に出るためには、赤坂見附駅で乗り換えになる。

 金平糖を頬張って、赤いチェックのマフラーに口元を埋める。コートのポケットに両手を入れて歩く彼女は朝の新宿通りの景色を眺めた。

車が何台も通りすぎていく。名前も知らないどこかの誰かの知らない日常。知らない一日がまた始まる。

今この瞬間を自分は生きているのに、タカヒロはもう生きていない。そのことが不思議だった。
過去に好きだった人が死んだと言うのにどうして何も感じない? 可哀想? 同情? 何か違う。
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