聖女のいない国に、祝福は訪れない【電子書籍化】
 ――だから。

 あえて顔を近づけてきたニセラの身体に触れ、角度によっては情熱的な口付けを交わしているように見せかけた。

(己が剣でこの女を屠れば、彼女は嘆き悲しむだろう。これでも一応、双子の妹だからな……)

 いくら不仲といえども、半身を失った双子はこのうえない喪失感に見舞われると言う。
 たとえそれが命を救った恩人の手によるものだとしても、ニセラの死を知ったフリジアがどんな態度を取るかは未知数だ。

(母上の死ですら、自分のせいだと心を痛めているのだから……)

 感受性の強いフリジアのことだ。
 きっと、彼が自らの手でニセラを殺めれば心の距離が広がってしまう。

(か弱い女であれば、命を奪うのは簡単だ)

 嫌がるセドリックの唇を奪った女狐。
 そう王城で働く人々へ思わせておけば、誰かしらが彼女を始末したいと願い出る。
 彼は忠誠心の高い部下に、王城内で剣を振るう許可を出せばいい。

「いや~ん! 雨じゃないですかぁ! ニセラのドレスが、濡れちゃーう!」

 ――水面下で考えを巡らせていたセドリックは、まるで魔法のように雨雲が空を覆い、土砂降りの雨が降り。
 雷が鳴り響くまで、気付けなかった。
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