御曹司さま、これは溺愛契約ですか?
もし口に合わなくても食べないのならそのまま置いておいてくれればよかったのに。そうしたら美果が次の日のお昼に食べたのに……
そう思いながら意気消沈して生ごみの処理ボックスを開けた美果は、そこに昨日はなかったはずの別の生ごみが入っていることに気が付いた。
人参、玉ねぎ、じゃがいもの皮……どれも昨日のメニューには使っていないはず。
ならばこれは――?
「美果」
「!」
急に発生した生ごみの出どころについて考えていると、キッチンの入り口から声をかけられた。驚いて顔を上げると、そこにはルームウェア姿の翔が不機嫌な表情で佇んでいた。
「お、おはようございます」
生ごみの処理ボックスの蓋を閉じた美果は、内心『今日は一人で起きれたんだ!』と小さな感動を覚えた。
その姿が起きたばかりの割にやや疲れているように見えることを不思議に思ったが、それよりまずは翔の連絡を無視してしまったことを詫びるべきだ。
「ごめんなさい、翔さん。昨日……」
「どうして電話に出なかった?」
開口一番不機嫌に訊ねられる。
その声の低さに「う」と怯んでしまう。
翔から連絡があった時間はすでに勤務時間外なので、電話に出なかったりメールに返事をしなかったりすることが、必ずしも雇用契約違反や業務命令違反になるわけではない。
だが美果を見つめる翔の目には明らかに怒りの感情が含まれている。美果の謝罪を素直に聞き入れてくれる気配もない。
冷たい視線に晒されて身が竦みそうになるが、それでもどうにか連絡が出来なかった理由を説明する。