御曹司さま、これは溺愛契約ですか?

「先週の日曜日に、おばあちゃんに結婚して家を出ることを報告したの。そしたらおばあちゃんから『あの家にはもう戻る予定がないから、誰も住まないなら売却しちゃいましょうか』って言われたの。だからお姉ちゃんも、今ある荷物をまとめて来月末までに家から出て行ってほしいんだ」
「!?」

 美果の説明を聞いた梨果の顔が驚愕の表情に変化する。信じられないといった様子でふるふるとわななき始める。

 ハワイから帰国した数日後、美果は翔と一緒に静枝が入所する施設に赴いて、婚約の報告をした。静枝は二人の社会的地位の差などまったく気にしていない様子で、翔に『美果ちゃんをよろしくね』と涙ぐんで微笑んでくれた。

 そしてその際、今住んでいる家をどうするか、という話し合いになった。だから実家の売却の話は、しっかりと協議して決定したこと。つまり梨果に報告している内容は、相談ではなく決定事項なのだ。

「何言ってるの? じゃあ私の帰る場所はどうするのよ……?」
「お姉ちゃんがどうしてもっていうなら、家の名義をおばあちゃんからお姉ちゃんに変更してもいいよ。そうなったら光熱費と固定資産税はお姉ちゃんに払ってもらうことになるけど」

 もちろん梨果は不服そうである。美果が淡々と告げる事実に、彼女の顔がどんどん青褪めていく。

「美果ひどい……っ! 私に相談もなく、大事なことを勝手に決めるなんて!」
「私『おばあちゃんと家の今後について話し合うことになると思う』って事前にちゃんと連絡したじゃない。そのメールも、当日かけた電話も無視したのはお姉ちゃんなのに『相談もなく』はちがうと思う」

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