御曹司さま、これは溺愛契約ですか?
静枝の入所する施設に婚約の報告に行く際に、誰も住まなくなる自宅の今後について話が及ぶことは、美果にも翔にも予想できていた。
だから梨果にも声をかけていたのに、それを無視したのも、当日意見を聞こうと施設から何度かかけた電話に出なかったのも、梨果の判断だ。後から文句を言われても困る。
だがもし、梨果がどうしてもあの家を手放したくないというのならば、静枝は梨果に家を任せてもいい、と言ってくれていた。
「家のことは今月中に決めてくれればまだ間に合うよ。お姉ちゃんが望むなら、その手続きは私がするから」
立地はいいしご近所も皆いい人たちばかりなので、住み心地は悪くないと思う。ただし家はそれなりに古くなっているので、今後長く住むつもりならリフォームも視野にいれなければならないけれど……と伝える必要はなさそうだ。
常に恋人の家に入り浸っていて、普段は一切実家に近付かない梨果が、あの家を買い取るはずがない。
だからこれはあくまで報告である。それから、他人の手に渡る前に必要なものがあるなら自分で整理して管理してほしい、という宣言だ。
「それと、先月貸したお金返してくれる?」
生まれ育った家を失うという衝撃に打ちひしがれているところに追い打ちをかけて申し訳ないが、これで梨果との縁が切れるのならば、その前にもう一つ確認しなければならないことがある。先月梨果に貸した、五十万円についてだ。
美果の問いかけに、梨果の目が泳ぎ出す。
「お金って、なんのこと? 私、美果にお金なんて借りてないよ……?」