【Quintet】
 顔は似ていても性格は似ていないと思っていた高園兄弟の、その意地悪な笑い方はよく似ている。

『腹黒兄貴。用がないなら早く仕事行け』
『黙れ発情野郎。沙羅を襲うくらいの気力があるなら早く熱下げろ。お前がいないとレコーディングも進まない。社会人なら体調管理もしっかりやれ』

 ブラックオーラ×2、兄弟喧嘩もいつにも増して険悪だ。不貞腐れた海斗も今は熱がピークに達したようで起き上がる気力もない。

海斗に押し倒されてキスをされた現場を悠真に目撃されたのは恥ずかしけれど、悠真が来てくれて助かったと安堵する沙羅だった。

 仕事に戻る悠真を玄関まで見送る。靴を履いた彼は無言で沙羅を見つめた。

「どうしたの?」
『海斗のキスどうだった?』

今日の高園兄弟は変だ。兄弟揃って同じような質問をする。

「えっと……あの……」
『沙羅』

 悠真の低くて穏やかな声色で名を呼ばれた沙羅は視線を上げた。目の前に端整な顔が近付いてきたと思えば、額に何かが触れた。

『いってきます』
「……いってらっしゃい……」

額を押さえて放心する沙羅に優しい微笑みを残して悠真は去った。

(今のっておでこに……キス……? いってきますの……ちゅー? え? 悠真が?)

 今日は何の日? キスの日? 何故? 何の為に?
唇ではないけれど、とうとう悠真にまでキスをされてしまった沙羅だった。
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