【Quintet】
『いつまでもガキ扱いすんなっ。んなことわかってるっつーの!』

 社長室を出て人気《ひとけ》のない廊下で独り言を吐き捨てた悠真は拳を壁に叩きつけた。

「あなたが感情剥き出しになるところ、初めて見た」

 誰もいないと思っていた廊下に響いた女性の声。数メートル先の背の高い観葉植物の向こうにスラリと細長く伸びた脚が見えた。

その脚が一歩前に出て、観葉植物で遮られていた姿が悠真の目の前に現れる。

『本庄さん……いたんですか』
「つい今しがた。あなたの手はギタリストの手なのよ。大事にして」

 ヒールを鳴らして歩いてくる女は事務所の看板女優の本庄玲夏。

『社長に会うといつもイラッとくるんですよね』
「社長は人を苛つかせる天才だもの。……最近は忙しそうね」
『本庄さんほどじゃありません。再来年公開の映画の主演、決まったって聞きました』
「色々と大変だったけど、お陰様でね」

 先月に本庄玲夏の身に起きた事件は悠真も周知だ。玲夏の主演ドラマのロケ中に殺人事件が起き、ドラマに出演していた玲夏と一ノ瀬蓮も巻き込まれた。

一時は、玲夏も蓮も週刊誌に追われていたが事件から1ヶ月が経過して騒動は収束しつつある。
(早河シリーズ第四幕【紫陽花】の事件)
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