【Quintet】
 1999年8月2日。欧州の航空会社バレーナ社の旅客機が成田空港に墜落した。
事故原因は機械のコントロールトラブル。コントロールを失った機体は着陸寸前に滑走路に墜落。機体は炎上、乗員乗客のほとんどが死亡する大惨事となった。

飛行機には海外公演帰りの沙羅の母、ヴァイオリニストの葉山美琴も乗っていた。不慮の事故で命を奪われた葉山美琴死去のニュースは日本だけでなく世界を悲しみに暮れさせた。

 あの真夏の惨劇から今年で10年──。

        *

 今日があの日だと思うと起きるのも億劫になる。命日が“普通の日”になることはない。
何年経っても、大切な人を失った悲しみは癒えない。

 2009年8月2日午前7時。鈍重な動きで沙羅はベッドを降りた。
室内に流れる母のヴァイオリンのメロディ。今朝のチョイスはチャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲だ。

(ダルいなぁ……。何もやる気が起きない)

母の命日はいつも体調が優れない。しばらく母のメロディに耳を傾けていた彼女は部屋着に着替えて自室を出た。

『沙羅、おはよー!』

 リビングに入ってきた沙羅に最初に話しかけてきたのは晴だ。リビングには海斗と晴、キッチンには悠真と星夜がいた。
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