【Quintet】
『カクテル言葉って知ってる?』
「花言葉みたいなもの?」
『そうだよ。前に海斗が歌詞作りのためにカクテル言葉を調べていたんだ。色々な言葉があった中で俺が覚えているカクテル言葉はこのカンパリオレンジ』

 ミモザ、アドニス、カンパリオレンジ、今日だけでカクテルの名前を三つ覚えた。
大人な雰囲気のアドニスの次に悠真が選ぶ酒にしては、カンパリオレンジは少々子どもっぽい気がして違和感があった。

『カンパリオレンジのカクテル言葉は初恋。印象深くて忘れられなかった言葉なんだ』

初恋と聞いて沙羅の心がざわついた。ミモザとカンパリオレンジ、二つのオレンジベースのカクテルがテーブルに並んでいる。

『沙羅は俺の初恋の人なんだよ。初めて会った時から沙羅が好きだった』

 二つのオレンジカクテル、二度目の告白、絡まる二人の視線……

 地下のバーを出てフロントの前を通り過ぎた時に、そわそわした。部屋に帰るだけなのに知られてはいけない密会を目撃されたみたいで、いけないことをしているようで落ち着かなかった。
二人きりのエレベーターが上に昇る。

 火照った頬でうつむいた、あなたの隣
 思い出す水色のメロディはエーデルワイス
 記憶の中の綺麗な少年
 彼の優しい笑顔が大好きだった

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