【Quintet】
 花音の豊かで柔らかな胸元に視線が移る。その胸に触れたいと思う感情は男の性《さが》。

自分に好意を抱く女はいつ襲われても構わないと言いたげに隙だらけだ。ここで押し倒して抱こうとしても花音はきっと抵抗しない。

『……処女卒業はもう少し待って。中途半端な気持ちで手を出して花音の心も身体も傷付けたくない』
「晴ってそういうとこ律儀だよね。大好きっ」
『花音の大好きは何万回と聞いた』

 花音と一緒にいる時はいつも理性と欲望の狭間で忙しい。
花音が処女を守っていると知って安堵していた。1年のイギリス留学の間に英国紳士に抱かれて帰国してきたなら少なからずショックを受けていたかもしれない。

男は勝手だ。好意にはまだ応えられないのに好意を寄せてくれる女を自分のモノだと思っている。

 晴と花音が出会ったのは晴が高校2年、花音が高校1年の冬。イトコの悠真と海斗のバンド練習を見学に来た花音は晴に一目惚れしたのだ。

「お盆は幽霊が帰ってくるんだよねー。由芽ちゃんの幽霊も帰って来たのかな」
『さぁな』
「幽霊でもいいから由芽ちゃんに会いたいって思う?」
『それは……。実際に幽霊見えたら怖そうだから遠慮したい……』

バンド練習を通じて花音と由芽も仲良くなった。
常にテンションの高い花音と優等生の由芽は意外にも気が合ったらしく、晴の想い人の由芽の死を知った花音は、由芽の葬儀で大泣きしていた。
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