【Quintet】
マンション一階のロビーに設置されたソファーに長い脚を優雅に組んだ男が座っていた。男はエレベーターを降りてきた星夜を一瞥する。
『今日はお前に用はない。葉山沙羅さんにお会いしたかったんだが』
顔の筋肉を一切動かさない話し方も、感情が感じられない冷たい瞳も昔から変わらない。
『沙羅に何の用があるんですか?』
星夜が敬語を使うのは仕事の時と、この男と話をする時だけ。
『お前、明日は仕事か?』
『はい』
星夜の質問に男は答えない。これも昔からだ。言いたいことだけ言ってこちらの言い分には聞く耳を持たない。
『何時に終わる?』
『俺の仕事は定時が決められている仕事ではありません。仕事の終了予定の時刻をあなたが知ったところで予定通りに終わるとは限りませんが』
『ふん。まだ半人前の分際でわかったようなことを。……また来る』
マンションを去る男の背中に向けて二度と来るなと心の中で叫んだ。
男と入れ違いに海斗がロビーに入ってくる。
『お疲れ』
『おう。今の親父さんだろ。また来たのか』
海斗とすれ違った男の名は結城冬夜、星夜の父親だ。星夜がこの世で最も嫌悪している存在だった。
『海斗だけ? 悠真と晴は?』
『まだ仕事。今日の分の録りは終わったけど、あの二人は他のことで打ち合わせだと』
『リーダーとサブリーダーは大変だねぇ』
二人は連れ立ってロビーを横切りエレベーターに乗り込んだ。
『親父、今日は沙羅に用があったらしい』
『なんでお前の親父が沙羅に?』
『知らねぇよ。聞いても何も教えてくれなかった』
エレベーターが十九階で扉を開けた。先に降りた海斗が振り返る。
『沙羅に親父さんのことや家のこと話したのか?』
『話してない。心配させるだけだし。いずれは言うつもりでいるから、沙羅には親父のことは黙っててくれ』
エレベーターホールと自宅を隔てる通路の扉を海斗が指紋認証で開けた。
『今日はお前に用はない。葉山沙羅さんにお会いしたかったんだが』
顔の筋肉を一切動かさない話し方も、感情が感じられない冷たい瞳も昔から変わらない。
『沙羅に何の用があるんですか?』
星夜が敬語を使うのは仕事の時と、この男と話をする時だけ。
『お前、明日は仕事か?』
『はい』
星夜の質問に男は答えない。これも昔からだ。言いたいことだけ言ってこちらの言い分には聞く耳を持たない。
『何時に終わる?』
『俺の仕事は定時が決められている仕事ではありません。仕事の終了予定の時刻をあなたが知ったところで予定通りに終わるとは限りませんが』
『ふん。まだ半人前の分際でわかったようなことを。……また来る』
マンションを去る男の背中に向けて二度と来るなと心の中で叫んだ。
男と入れ違いに海斗がロビーに入ってくる。
『お疲れ』
『おう。今の親父さんだろ。また来たのか』
海斗とすれ違った男の名は結城冬夜、星夜の父親だ。星夜がこの世で最も嫌悪している存在だった。
『海斗だけ? 悠真と晴は?』
『まだ仕事。今日の分の録りは終わったけど、あの二人は他のことで打ち合わせだと』
『リーダーとサブリーダーは大変だねぇ』
二人は連れ立ってロビーを横切りエレベーターに乗り込んだ。
『親父、今日は沙羅に用があったらしい』
『なんでお前の親父が沙羅に?』
『知らねぇよ。聞いても何も教えてくれなかった』
エレベーターが十九階で扉を開けた。先に降りた海斗が振り返る。
『沙羅に親父さんのことや家のこと話したのか?』
『話してない。心配させるだけだし。いずれは言うつもりでいるから、沙羅には親父のことは黙っててくれ』
エレベーターホールと自宅を隔てる通路の扉を海斗が指紋認証で開けた。