【Quintet】
 星夜が帰宅するとすでに父親が居間で待っていた。

『早かったな』
『話は何ですか?』
『まぁ座りなさい。彼女をこちらへ』

 結城の指示を受けた使用人が居間を出ていく。帰りの車内で秀一が言っていた通り、やはり婚約の話だろうか。

父の表情は妙ににこやかだ。普段は仏頂面な男の愛想が良くなる時は腹に一物ある証拠。

 使用人に連れられて居間に入ってきた人物を目にした星夜は驚愕した。

『……沙羅っ?』

ここにいるはずのない星夜のよく知る女の子、葉山沙羅が立っていた。沙羅は星夜を見ても驚かない。

『沙羅さんお待たせして申し訳ない。そちらにお掛けになってください』

 沙羅に微笑みかける結城は星夜の隣を示した。結城に一礼して沙羅は星夜と並んでソファーに座った。

(親父はいつの間に沙羅と接触していたんだ?)

沙羅はここが星夜の実家だと言うことも、結城が星夜の父親だと言うことも知っている様子だ。沙羅と話がしたくても父親の前では話せない。

『単刀直入に言おう。星夜、沙羅さんと結婚しなさい』
『……父さん。沙羅と結婚って……何を言っているんですか?』
『そのままの意味だ。これからは沙羅さんと婚約者としてお付き合いしなさい。どうした? 相手が沙羅さんならお前に不服はないと思ったのだが?』

 意地悪く口の端だけを上げて笑う父親には嫌悪感が込み上げるが、確かに好きでもない女との結婚だと諦めていた相手が沙羅ならば文句はない。

だけど沙羅は悠真と海斗の……。
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