最愛の婚約者の邪魔にしかならないので、過去ごと捨てることにしました
5.
 
 オレンジ髪の少女と、黒羊妖精が仲睦まじく隣を歩く。微笑ましくも想定外の結末を見届ける者が一人。

「まったく。あの子も変わっていたけれど、今度の子はとびきり変わっているな」
「神様、また下界を見ていたのですか?」
「うん。私の可愛い子供たちが、どんな生き方を選んでいるのか興味あるしね」
「ほどほどになさってくださいね。この間、神獣が下界に落ちて大変だったのですから」

 白狐の妖精が寝そべりながら己の主人に告げる。そんな従者の頭をそっと撫でた。

「そうだね、あれのせいで私の子供が酷い目にあったからね。ちゃんと報復はしてきたし、叱っておいた」
「叱っちゃったんですか……。ちなみに、どなたまで叱ったのです?」
「ん~~、王族は死刑から市井に逃して、教皇はここまでになるまで放っておいた罰として力の制限をかけてから説教。それで今回の騒動の首謀者は、戦神だったようだよ」
「え。どうして?」
「私と戦いたかったらしい。今までも戦いを挑まれていたのだけれど、無視していたら私を怒らせるために私の子供を追い詰めたって。あははっ、とんでもない思考だよね」
「あー、そこまでして戦いたかったのですね。で、今度はどこまで破壊したのですか?」

 従者は戦神の愚かさに溜息を吐き、主人の行動を尋ねた。

「失礼だな。お前たちの事後処理が大変だと思って、今回は何処も削っていない。ただ戦神を邪竜に作り替えて放逐したぐらいかな」
「な──っ、何しているのですか!?」
「守られていることが当たり前だと思っているシステムの再構築を行うためにも、ちょうど良いと思ってね。もちろん、別世界にポイしてきたから大丈夫だよ」
「全然、大丈夫ではないのでは?」
「大丈夫、大丈夫。邪竜にも呪いを掛けておいたから。邪竜と同等の力を持ち、愛した者に殺されないと解けない──とね」

 従者の白狐は呪いの解呪方法に慄いた。呪いが解けても幸せにはなれないし、間違いなく不幸でしかない未来にゾッとする。それが怒らせてはならない者の逆鱗に触れた罰なのだろう。

「ああいう手合いは一度痛い目を見ないと分からないだろうし、自分に大切な者がいないからああなるんだ。私の可愛い子を寄って集って虐めていたんだ。報復としては妥当だと言いたいね」

 ふわりとオレンジ色の髪が逆立ち、周囲の雲が一瞬で吹き飛んだ。それを間近で感じて白狐の尻尾がブルリと震えた。

「理性が残っていたようで何よりです。……それにしても高々数百年で約束を違えるなど、人間は愚かですね」
「本当にその通りだよ。忘れないようにしっかり言い含めていても、どこかで継承されていた伝統や伝承、約束事が途絶える。そんなんだからいつまでも歯車が安定しない」
「人間は短命で浅慮ですから、もう少しやり方やシステムを変えるほうがいいのでは?」
「そうだね。願わくは僕の可愛い子供たちが幸福であるようにしたいな」

 呪いと願いは表裏一体。
 そして忘却をいくらしようとも、魂に刻まれた思いの深さまでを完全に取り除くことは難しい。心と体が癒されていく中で記憶の欠片は夢を媒体に反映され、浮上する。
 そしてそれは必ずしも悪夢とは──限らない。

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