あの場所へ

4.わずかな幸せ

2ヶ月がすぎ,
島は真夏の太陽の日差しにつつまれて,海にはサーファーや海水浴客が集まり,静かな島が一時の喧騒につつまれる頃,

七海は島に戻ってきた。

学校も通信制から転学ができ,
同じ時間を同じ場所で共有できた。



俺は,周りの目を気にすることなく,
七海と一緒にいた。
いつでも七海の笑顔を見ていたかった。

こんな俺が七海と一緒に本なんて読み始めた。

「上妻くんも,本のよさが少しは分かってきたみたいね。」

と七海は微笑んだ。



図書室の向かい合わせに座って,
同じときを共有して,違う本を読んで
そのあと,その本について話をする。

今までの俺には経験したことのない新鮮さを感じた。

しかし,
そんな幸せなときは,
そう長くは続かなかった。


「ねえ。今度のクリスマスプレゼント,何がいい?」

「なんもいらないよ。それよりふたご座流星群が出てくる頃だから,今度一緒にみようか。12月14日が極大だから,その日にしよう。いいだろう。おばさんには,俺が言っとくから・・・」

「本当,嬉しいな。流星群って,たくさん流れ星が落ちてくるんでしょう。楽しみだね。寒いから,たくさん着込んでいかなきゃ。雪だるまみたいになっちゃうかも・・・」

と七海は笑った。

俺は昨日の七海の喜んでいた顔を思い出しながら,グランドを走っていた。


その時だった。

「上妻・・・門倉がたおれたあ。」

と図書室から叫び声が聞こえた。


俺は火がついたように,
グランドを飛び出すと図書室へ向かった。吐血して倒れている七海を,保健室の先生が介抱していた。

遠くから救急車のサイレンの音が近づいてきていた。

俺は,意識のない七海を抱きかかえると,救急隊員に無理を言って,同じ車に乗り込み,病院へ向かった。七海はそのままICUへ運ばれた。


俺はICUの前でへたり込んでしまった。


「七海・・・絶対,戻って来い・・・。
 流星を一緒にみるんだろう・・・」



止め処もなく涙が溢れてきた。

こんなに泣いたのは初めてだった。

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