俺の妻に手を出すな~離婚前提なのに、御曹司の独占愛が爆発して~
すでに里穂の姿が見えなくなったビルの玄関を見つめながら、里穂は肩を竦めた。

「里穂さん?」

「え?」 
 
名前を呼ばれ振り返ると、目の前に桐生が立っていた。

「あ、あの、こんにちは」
 
まさか顔を合わせるとは思わず、慌てて頭を下げた。

「こんにちは。珍しい所で会いますね。笹原になにか?」

「そうなんです。あの、届け物があったんですけど、妹は今戻ったところで」

上司に忘れ物をしたとは言わない方がいいだろうと思い、言葉を濁した。

「そうですか。お店の方は大丈夫なんですか?」

「実は今日はお休みなんです。水道管の工事で断水の時間があるので」

「だったら今日は久しぶりの休みですか?」

「はい。それも平日の休みは何年かぶりです」

考えてみれば、日曜日も店の掃除や料理の仕込みでほぼ一日店で過ごしている。

出かけるのは久しぶりだ。

「だったら今日は、恭太郞の皿洗いも休みってことですね」
 
からかい交じりの声に、里穂は小さく笑う。

「最近忙しいみたいで今週は一度も顔を見てないんです。お客さんたちも寂しがってます」

「ああ、今は期末の処理でバタバタしてるはずです。そのうち顔を出すと思いますよ。というよりそのために今ギアを上げて仕事をしてるはずです。どっちが本業か本人もわかってないかもしれないですね」

「まさか、それはないと思いますけど……」

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