he said , she said[完結編]
何個めかの小路の角に、その店はあった。うっかりすると通り過ぎてしまいそうだ。
外観はどうということのない和風の小料理屋だ。
からりと引き戸を開ける。と、「いらっしゃいませ」と女性の二重奏に迎えられた。
聞いていた通りだ。

こぢんまりした店内は向かって左側がL字型のカウンター席、右手の壁にそっていくつかテーブル席がしつらえてあった。
オープンキッチンの中に若い女性が一人、そして年配の女性に出迎えられる。
カウンター席に何人か先客がいた。

「予約していた片岡です」と告げると、テーブルの一つに案内された。

「女性だけでやっているんですね」
瞳子が声をひそめてささやく。

「料理人の女性とホールの女性、母娘だそうですよ」
さっそく教えてやる。

えっ、と瞳子は小さく目を見張って、立ち働く二人の女性にちらちらと視線を送った。

「東銀座に若い店主がやっている天ぷら屋があるんですけど。その店主に、妹が六本木に小料理屋を出して母と二人で頑張ってるから顔出してやってほしい、って話で」
正確には井出からの受け売りだが、そこはしれっと割愛する。
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