エリートなあなた
それは紛れもない、黒岩課長その人の声であったから――
「私の気持ち知ってたクセに、どういうことよ!?」
「…分かってるよ、それは十分」
「分かってたら、そんな態度でいれるわけ!?」
私のいる場所から2人を捉えることは不可能。それでも苛立ちを隠そうとしない絵美さんと、至って冷静な課長の声はひどく対照的。
何よりもそこには、2人の親密さが十分に伝わるものだけが存在していた。
「――どうしても欲しい」
「修平…」
絵美さんへ向けられているストレートな一言に、ズキンと心臓に痛みを覚えてしまう。
「っ、」
視線を落として、私はただ息を潜めた。――おかしいよ、何でこんなにズキズキ痛むの…?
不思議と痛みの増す自分の感情が情けない。音を出来るだけ立てないように静かに踵を返した。
化粧室に立ち寄ることさえ忘れて戻った秘書課で、動揺を隠すためにPCとひたすら向き合う私。