エリートなあなた
右往左往しそうな心を宥めていると。コンコン、とドアをノックする音が響く。
“はい!”と返事をして慌てて立ち上がればドアが開き、鼓動がまた早まる。
「吉川さん失礼するよ?」と顔を覗かせたのは、穏やかな笑みを浮かべた黒岩課長その人だった。
「は、はい。すみません、私が伺いましたのに…」
「ハハッ、いいよ。俺も気分転換になるから」
ペコリと頭を下げれば優しくフォローを入れてくれる彼。やはり部下の扱いには慣れている。
“専務から頼まれた資料だからよろしく”と手渡された書類一式には、社外秘の文字。
それを緊張しながらも丁重に受け取って、ひとまず自分のデスク上へ静かに置いた。
2人きりの今――数日前の絵美さんの光景が浮かんで、上手く笑えているか分からない。
「――あれから頑張ってるそうだね」
「…え、」
ただでさえ多忙な課長だから、すぐに戻るものだと思っていたのに。不意に話しかけられて言葉に詰まる。