エリートなあなた


ブラウンのダレスバッグを提げる姿から察するに、課長はどこかへ出ていたのだろう。



グレーのストライプスーツを着こなし、お洒落な彼の栗色の髪はサイドへ流れていた。



すると、私と阿野さんの間を分かつように立った課長。そこでようやく彼女の視線が逸れてホッとする。



頬に手を添えたままの私を一瞥したあと、ダークグレイの瞳は阿野さんへ向いた。



「どうしたんだ?」


「…いえ、」


いつになく課長は無機質な顔つき。その彼からのお尋ねで、意気消沈したのか俯いてしまう彼女。



綺麗に巻かれている髪がサイドに落ちて、彼女の表情を隠してしまった。



「私は現場を見ていない。何があったんだ?」


すると取り囲んでいた周囲へ視線を移す課長。中からポツリ、と答えが返ってきた。


「…え、と、巻き髪の子が彼女の頬を叩いて、…色々と言って、」


「色々?」


「その、…男好きとか、…専務に取り入って利用したとか、…です」


曖昧なニュアンスに眉を潜めた課長の問いに、答えた男性はたどたどしく返してくる。



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