早河シリーズ第三幕【堕天使】
 すでに岩瀬刑事が寝室で作業を始めていた。岩瀬が香道を手招きする。

『部屋から注射器が何本か見つかった。常習のようだな。あとは、これ』

岩瀬は香道の目の前に薄いオレンジ色の粉末が入った小袋を提げた。香道は目を凝らして透明な袋越しにオレンジの粉末を観察する。

『なんでしょう……粉薬?』
『見た目は胃薬か何かの薬に見えるよな。この薬が注射器と一緒に置いてあった。鑑定に出せば何のクスリかわかるだろう』
『男の死因は急性薬物中毒に間違いないでしょう。薬物中毒で錯乱した男が女を刺した後にショック死した……』
『クスリをやった男に強い幻覚症状が起きたのかもしれない。覚醒剤や大麻でもない、俺もこんな薬は初めて見る。何なんだろうな、コイツ……』

 男子大学生の部屋から発見された注射器とオレンジ色の粉末、他いくつかの不審な物が押収品として箱に納められ警視庁に運ばれた。

 遺体の解剖と鑑定の結果、死亡した男子大学生の体内からは日本では未確認の薬物の成分が検出された。
警察庁がICPO(国際刑事警察機構)に問い合わせをしたところ、この未確認の成分は中東の闇組織が製造、販売を行う違法薬物の成分だと判明した。

 何故、中東で製造された違法薬物が日本の大学生の手に渡ったのか、警視庁は組織犯罪対策課と捜査一課の合同捜査本部を設置して薬の入手ルートを調べている。

 そして桜も散り、間近に迫るゴールデンウィークに人々が浮き足立つ頃。またひとり、またひとりと違法薬物を使用した急性薬物中毒による死亡者が相次いだ。

死亡した者達の部屋や手荷物の中からは数種類の違法薬物が見つかり、その中にはあのオレンジ色の粉末のクスリも入っていた。

 このオレンジ色の薬物は脳に働きかけ性欲を著しく刺激する媚薬。
中東の闇組織ではこのクスリを富裕層に高値で売りさばき、闇組織からクスリを購入した富裕層は、人身売買で売られた十代半ばの花嫁に飲ませて初夜を迎えさせる。

 狂った男達の夢と欲望の渦巻く薬物をICPOはこう名付けた。〈Forbidden fruit〉と。


 Forbidden fruit
 日本名は【禁断の果実】──。

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