君は大人の玩具という。



執刀医がやると決めたら、
あとはついていくだけ。

それが、京子が持っている
器械出しとしてのポリシーみたいな
ものだった。

自分は先陣を切っていける人間でも
物申せる立場でもない。

ただ、懸命にサポートに当たるのが、
自分の性格に合っている。

京子は隣に立つ牧をこっそり見た。

チャラチャラしていて
女と見たらすぐ口説く。

しつこくて
品がなくて
諦めの悪い
最低な男。


だが、医師としての腕は天才だ。

技術だけではない。

患者を救いたい気持ちは
人一倍あるのだろう。

大きな賭けに出ても
どんな窮地に立たされても
必ず有言実行してみせる。

患者に優しく
決して見捨てず、
諦めない
最高の医者。


京子はこんなに真面目な顔の牧を
久々に見た気がした。

いつもはオペ中も
隙あらば口説き文句が降ってくるが、
今は違う。

ひたすら目の前の命と向き合っている。
そんな真っすぐな目をしている。

京子は未だかつてない尊敬の気持ちを
牧に抱いた。

そして、この人のオペにつけることを
誇りにさえ思えた。

そんな思いがどんどん溢れ出ていた矢先、


「そんなに見つめられたら
 照れちゃうなぁ」


牧が手元から目を離すことなく言って
手を広げた。

京子はその手に鉗子を思いっきり当てつけた。


「いてっ」


尊敬して損した…

なんて、思わないけど。


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