無愛想な天才外科医と最高難度の身代わり婚～甘く豹変した旦那様に捕まりました～【職業男子×溺愛大逆転シリーズ】

「どなたかと間違えてらっしゃいませんか？私はそんなことをした覚えはありません」　
「どうだかな」

　落ち着いて否定してみせたが、真紘は意に介さず鼻で笑っただけだった。全く信じていないことが窺える。

「一体、どなたからそんな話を聞いたんですか？」
「なんでそんなことをおまえに言わなきゃいけない」
「だって私には覚えのないことですから。もしかしたら私や両親に悪意を持った方が流した噂ということもありえるかと」
「それはない。少なくともおまえよりは信用できる人間からの情報だ」

　取り付く島もない。
　由惟はムムムと眉根を寄せた。この状況から、どうやって真紘の信頼を勝ち取ればいいんだろう。まったく手立てが思い浮かばない。

「……ひょっとして、成澤さんはこのお話を断りたいんですか？」

　急に態度を翻したことも含めて、破談を望んでいるとしか思えない。
　だが、意外にも真紘は首を横に振った。

「まさか。おまえと結婚しなきゃ、生田目病院は手に入れられないだろ」
「え……？」
「こんな田舎の病院でも、トップに立つっていうのはそう悪い気分じゃないからな。でなきゃ、おまえみたいな性悪と誰が結婚なんてするか」
「なっ……」

　とんでもないことを言われた衝撃で、由惟の唇がわなわなと震えた。絶句する由惟に向かって、真紘は追い討ちをかけるように言葉を続けてくる。

「いいか。おまえは俺が病院を掌握するためのただの道具だ。他の男にしたのと同じように俺に媚を売ったりするなよ、迷惑だからな。その代わり、おまえがどこで何をしようが俺は干渉しない。外に男でも作って、好きに遊べばいい。ただし、俺に面倒だけはかけるなよ」

　妻ではなく、道具。こんなの、夫婦として愛を育むつもりはないと宣言されたようなものだ。
　政略結婚なのだから目的はあってしかるべきなんだろうが、無遠慮に突きつけてくる真紘の神経を疑う。由惟は眉をひそめた。