無愛想な天才外科医と最高難度の身代わり婚~甘く豹変した旦那様に捕まりました~【職業男子×溺愛大逆転シリーズ】
「今の言葉、父と母に言いつけますよ?そうしたら困るのは成澤さんの方じゃないですか?」
「親に余計な心配をかけたいなら勝手にしろよ。そんなことをしてもこの結婚は覆らないがな」
「……どうしてそう言い切れるんですか?」
「俺がいなきゃ、生田目病院の患者は半減するからな。みどりさんたちは、意地でも俺とおまえを結婚させるさ」

 不遜に腕組みをした真紘が、こちらを馬鹿にしたように口角を持ち上げた。
 
 随分と思い上がった発言だ。彼以外の人間が口にしたら失笑を買うに違いない。
 でも、悔しいけれど、真紘の言葉は事実なんだろう。テレビや雑誌に出た有名医師に診てもらいたいという理由で、生田目病院に患者が集まっているのは想像に難くない。生田目院長も、真紘は絶対に手放せないと言っていた。

 初対面で罵られ、おまえは道具だと馬鹿にされ――失礼極まりない目の前の男の鼻を明かしてやりたいのに、言い負かせないことが悔しい。
 自分が代役であることも忘れて、由惟は怒りに任せて頬を膨らませた。それを見て、真紘がまた鼻で笑う。

「それ、睨んでるつもりか?百面相にしか見えないけど」
「ッ!」

(なんなの、この人!)

 こんなにも誰かに怒りを感じたのは初めてだった。全身の血液が沸き立つように体が熱くなる。

 嫌味の一つくらいは言っても許されるだろうか。そう思って口を開いたが、真紘は由惟の睨みをかわすように踵を返していた。

「ど、どこに行くんですか?」
「戻るんだよ。無駄な時間は浪費しない主義だからな」

 つまり由惟と散歩をしているこの時間がまさしく無駄だと言いたいんだろうか。
 ぐぬぬ、と由惟は奥歯を噛み締めた。何から何までムカつく。
 そうしている間にも真紘の背中はどんどん遠ざかっていく。足が長いので歩く速度も速い。

「もうっ!」

 追いかけたくはないけれど、戻らないわけにはいかない。
 肩を怒らせながら、由惟は慣れない振袖の裾を捌きつつ、ちょこちょこと真紘の後を追うのだった。
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