無愛想な天才外科医と最高難度の身代わり婚~甘く豹変した旦那様に捕まりました~【職業男子×溺愛大逆転シリーズ】
「あんなに大げさに騒いじゃってすみませんでした」
ペコリと頭を下げて謝る。
真紘はふいっと顔を逸らして、抽出し終えたドリップバッグをシンクの中のゴミ袋にポイっと捨てた。
「馬鹿言うな」
「えっ?」
「人間の脳は日々あらゆる事柄を認識している。もちろん全てが記憶として残るわけじゃないが、扁桃体の神経を強く活性化する体験――怖かったことや、ムカついたたことっていうのは、記憶として脳に残りやすいんだよ。あれだけ強烈にフラッシュバックをしたってことは、脳がそれだけ恐怖を覚えているってことだ。十分、大したことだろ」
立ったままコーヒーを飲み、ぶっきらぼうな口調で話す真紘は、もうこちらを見ようとはしなかった。慰めてくれているわけじゃないことはわかる。
それでも自分をないがしろにするなと言ってくれているようで、少しむず痒い気持ちになった。この十年間、小指の先ほどすら、由惟を気にかけてくれる人なんていなかったから。
「だから悪かった。別に、怯えさせたかったわけじゃない」
いきなりまっすぐ見つめられ、由惟の心臓が大きく跳ねる。恐ろしく端正な顔は間近で見ると心臓に悪い。
「はい。もう、大丈夫です……」
俯きがちに答えるのと同時にシンクが小さく鳴った。真紘のマグカップがシンクに置かれていることに気がついた時にはもう、彼は由惟の横を通り過ぎていた。
慌てて追いかけると、コートを羽織った真紘が靴を履くところだった。時刻はまだ六時。仕事に行くには早い時間だ。
「もうお仕事ですか?」
「……リビングに置いてある通帳は好きに使っていい。生活費はそこから出せ」
会話が噛み合っていないが、それを指摘する間もなく玄関のドアが開いた。冬が近い、冷たく澄んだ風が吹き込んでくる。
「いってらっしゃい」
投げかけた見送りの言葉が返ってくることなかった。無様に三和土の上に落ちた自分の声を見つめるように、由惟は俯いていた。
ペコリと頭を下げて謝る。
真紘はふいっと顔を逸らして、抽出し終えたドリップバッグをシンクの中のゴミ袋にポイっと捨てた。
「馬鹿言うな」
「えっ?」
「人間の脳は日々あらゆる事柄を認識している。もちろん全てが記憶として残るわけじゃないが、扁桃体の神経を強く活性化する体験――怖かったことや、ムカついたたことっていうのは、記憶として脳に残りやすいんだよ。あれだけ強烈にフラッシュバックをしたってことは、脳がそれだけ恐怖を覚えているってことだ。十分、大したことだろ」
立ったままコーヒーを飲み、ぶっきらぼうな口調で話す真紘は、もうこちらを見ようとはしなかった。慰めてくれているわけじゃないことはわかる。
それでも自分をないがしろにするなと言ってくれているようで、少しむず痒い気持ちになった。この十年間、小指の先ほどすら、由惟を気にかけてくれる人なんていなかったから。
「だから悪かった。別に、怯えさせたかったわけじゃない」
いきなりまっすぐ見つめられ、由惟の心臓が大きく跳ねる。恐ろしく端正な顔は間近で見ると心臓に悪い。
「はい。もう、大丈夫です……」
俯きがちに答えるのと同時にシンクが小さく鳴った。真紘のマグカップがシンクに置かれていることに気がついた時にはもう、彼は由惟の横を通り過ぎていた。
慌てて追いかけると、コートを羽織った真紘が靴を履くところだった。時刻はまだ六時。仕事に行くには早い時間だ。
「もうお仕事ですか?」
「……リビングに置いてある通帳は好きに使っていい。生活費はそこから出せ」
会話が噛み合っていないが、それを指摘する間もなく玄関のドアが開いた。冬が近い、冷たく澄んだ風が吹き込んでくる。
「いってらっしゃい」
投げかけた見送りの言葉が返ってくることなかった。無様に三和土の上に落ちた自分の声を見つめるように、由惟は俯いていた。