無愛想な天才外科医と最高難度の身代わり婚~甘く豹変した旦那様に捕まりました~【職業男子×溺愛大逆転シリーズ】
 由惟が呆けている間に、真紘は部屋に戻っていった。カウンターに置いていたご飯はまた冷めてしまった。

 仕方なく、またレンジでご飯を温め直すが、その間も動悸は収まらないでいた。
 このドキドキはなんだろう。緊張とは違い、嫌な感じはしない。でも形容する言葉が見つからない。

 物思いに耽っていたせいで、チンとレンジが鳴ったことにも気づかなかった。ぼうっと突っ立っていたそばから、突然腕が伸びてきて、我に返った由惟は飛び上がって驚いた。

「これ、おまえの?」

 ネイビーのジャージに着替えた真紘がお茶碗を片手に立っていた。量販店のだるっとしたジャージすら完璧に着こなす様に、自然と目を奪われる。
 何も考えずに頷くと、真紘が難しい顔をしてお茶碗に視線を落とした。

「これ、本当に俺の分もあるのか?」
「えっ?あ、ああ……ありますよ。冷蔵庫に入ってます……」
「あれだけボロクソに言われた相手に、よく作ろうと思えるな」
「失礼なことを言ってる自覚はあったんですね」

 思ったことをそのまま口に出すと、真紘がムッと唇を突き出した。それから、観念したようなため息がポトリと落ちてくる。

「おまえの本性を引き出そうと思って、わざと怒らせようとしていたのは認めるよ。おまえがどういう人間か、俺自身で確かめたかったからな」
「それで、まだ性悪女だと思ってるんですか?」
「……いや。違うだろうなとは思ってる」
「えっ?」

 思いがけない返答が返ってきて、由惟は目を瞬かせた。

「渡した金も全然使ってないし、遊び歩いている気配もない。家に男も連れ込んでないみたいだしな。話に聞いてたおまえと、実際のおまえは全く違った。そうそう。菅原さんが、おまえが家にこもって家事ばっかりしてるから仕事がなくなるってぼやいてたぞ」

 菅原は二日に一回、この家に来るハウスキーパーだ。五十代くらいの優しいお母さんといった風貌で、性格も穏やかで話しやすい。ここ最近唯一と言っていい由惟の話し相手だった。

 由惟自身も菅原から「私の仕事がなくなっちゃうから、穂乃花さんは何もしなくていいんですよ」と、たびたび苦言を呈されてはいた。でも誰かに家事をやらせて自分は何もしないというのは落ち着かないので、結局自分で全てやってしまっている。十年の長きに渡って染み付いた奴隷根性は、そう簡単には消えない。

 どうやら話を聞く限り、真紘は菅原を監視カメラ代わりにして由惟の様子を探っていたらしい。自分の行動を逐一報告されていたと思うと少し複雑だが、誤解が晴れたのならよかった。
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