無愛想な天才外科医と最高難度の身代わり婚~甘く豹変した旦那様に捕まりました~【職業男子×溺愛大逆転シリーズ】
「俺だけ食べてると、なんかいじめてるみたいだろ」
「私のこと、散々こっぴどく罵ってたんだから、今更そんなこと気にしなくていいじゃないですか」
「……悪かったよ」
「へ?」
「嫌な態度とって悪かった。だからほら、食べろ」

 言い方は雑だったものの、突然謝られてうろたえる由惟の口に鶏肉が詰め込まれた。甘塩っぱいタレが舌に絡んでおいしい……いや、そうじゃなくて。

「わ、私はいいですから!はい!成澤さんが食べてください!」

 由惟はすかさず照り焼きを一切れ箸で掴み、仏頂面でキャベツを頬張る真紘の眼前に突きつけた。本当はキャベツの横に置こうとしたのだが、その前に照り焼きはパクリと開けた真紘の口の中に消えてしまった。

「ん。うまい。ありがとな」

 その言葉を聞いた瞬間、頭の中で「わーっ!」と声にならない叫びが反響した。
 
 なんで直接食べるの?とか、なんでそんなに平然としてるの?とか。料理の感想なんて絶対言わなさそうなのに、サラッと褒めてきたりもして。
 突然砂嵐が巻き起こったように、由惟の心が荒れ狂う。
 
 十年間、毎日欠かすことなく人のために料理を作ってきて、おいしいと言ってもらえたのは今日が初めてだった。たった三文字。その破壊力が凄まじい。

 またバグを起こしたように高鳴る心臓の鼓動は、真紘にまで聞こえてしまいそうなほど音が大きかった。
 誤魔化すように大げさにキャベツを噛む。キャベツはいつもより瑞々しくて、ドレッシングの味も鮮明でおいしい。

 妙に熱い顔面に気を取られて、鶏肉をめぐる攻防を続ける気力もなくなり、由惟は促されるまま残りの鶏肉を全て食べた。
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