無愛想な天才外科医と最高難度の身代わり婚~甘く豹変した旦那様に捕まりました~【職業男子×溺愛大逆転シリーズ】

寄せては返す

 初めて夕食を共にして以来、真紘はほとんど毎日家に帰ってくるようになった。
 ただ、早朝に出勤し深夜に帰ってくる真紘と顔を合わせる時間は極端に少ない。当直がある日はそのまま帰ってこないことも多いので、尚更だ。

 誤解も晴れたことだし、穂乃花の繋ぎ役としてこれから真紘と良好な関係を築かなければ、と意気込んでいたのだが、現実はそう甘くはなかった。

「今日も忙しかったんですか?」
「まあ。普通だな」
「お昼ごはんはちゃんと食べました?」
「カップ麺とまんじゅう」
「……昨日とおんなじじゃないですか」
「外来が詰まってたんだよ」

 ぶっきらぼうに言いながら、真紘は驚くべき速さでサンマの身をほぐして口に運んでいる。忙しさのあまり食べる時間すらままならないため、早食いが身についてしまったらしい。
 食事を始めて五分も経たないうちに、もう半分ほど平らげている。由惟なんて、まだ二口くらいしか食べていないのに。

「よければお弁当でも作りましょうか?おにぎりとか、サンドイッチとか食べやすいもので」

 そんなに忙しいならと思いつきで提案してみたら、簡素だけれど即座に返ってきていた真紘の返事が止まった。見ると、顎に手を当てて考え込んでいる。
 
 悩んでくれているんだろうか。無愛想な表情とは裏腹に、真紘は意外と由惟の料理を気に入ってくれていることは知っている。食べ終えたら毎回欠かさず「おいしかった」と言ってくれるから。

 てっきり頷いてくれるものだと思っていたけれど、熟考の末、真紘は首を横に振った。

「いや、いらない。食えないこともままあるからな」
「……そんなに忙しいんですね。もし必要になったら言ってください」

 がっかりしなかったといったら嘘になる。でも親切の押し売りをしたいわけではないから、本音は笑顔の裏にひた隠した。
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