無愛想な天才外科医と最高難度の身代わり婚~甘く豹変した旦那様に捕まりました~【職業男子×溺愛大逆転シリーズ】
「あの、仮に身代わりが上手くいかなかったとしても、いただいたお金は……」
後ろめたさのあまり口ごもる由惟の言いたいことを察してくれたみどりは、優しく微笑んだ。
「ええ、もちろん受け取ってもらって構わないわ。あなたがこの場にいてくれるだけで報酬はお支払いするって約束だったもの」
その言葉に由惟は胸を撫で下ろした。机の下に置いてある、みどりから借りた和装バッグの中には、お見合いを代理出席する報酬として貰った五十万円が入っている。
二時間座っているだけで目を瞠るほどの大金が貰えると聞いて、由惟は一も二もなく承諾した。
両親を交通事故で亡くしてからの十年間、なけなしのお金を必死で貯め続けていたが、由惟の貯金は今回もらえる報酬の十分の一にも満たない。断る理由などなかった。
(このお金があれば、やっとあの家から出ていける……)
由惟を使用人のように扱い、虐げていたあの人たちからようやく逃れられる。十年間、ずっとずっと待ち望んでいたことだった。
膝の上で拳を握ると、着物に縫い付けられた刺繍の凹凸が手に触れた。
由惟には分不相応なほど豪奢な振袖。深紅の布地の上に色とりどりの牡丹が全面に描かれており、知識のない由惟にもこの着物がとんでもなく高価な代物だとわかるほど、質の良い一枚だ。
衣装負けしているのは百も承知だ。しかしせめて気持ちの上では負けないようにと、由惟はピンと背筋を伸ばして気合いを入れた。
仮に身代わりがバレてしまっても報酬がもらえるとはいえ、大金をもらう以上、与えられた役目はきっちりこなしたい。
戦場に赴くような緊張感でお見合い相手を待ち構えていると、外から声がして襖がガラリと開いた。
後ろめたさのあまり口ごもる由惟の言いたいことを察してくれたみどりは、優しく微笑んだ。
「ええ、もちろん受け取ってもらって構わないわ。あなたがこの場にいてくれるだけで報酬はお支払いするって約束だったもの」
その言葉に由惟は胸を撫で下ろした。机の下に置いてある、みどりから借りた和装バッグの中には、お見合いを代理出席する報酬として貰った五十万円が入っている。
二時間座っているだけで目を瞠るほどの大金が貰えると聞いて、由惟は一も二もなく承諾した。
両親を交通事故で亡くしてからの十年間、なけなしのお金を必死で貯め続けていたが、由惟の貯金は今回もらえる報酬の十分の一にも満たない。断る理由などなかった。
(このお金があれば、やっとあの家から出ていける……)
由惟を使用人のように扱い、虐げていたあの人たちからようやく逃れられる。十年間、ずっとずっと待ち望んでいたことだった。
膝の上で拳を握ると、着物に縫い付けられた刺繍の凹凸が手に触れた。
由惟には分不相応なほど豪奢な振袖。深紅の布地の上に色とりどりの牡丹が全面に描かれており、知識のない由惟にもこの着物がとんでもなく高価な代物だとわかるほど、質の良い一枚だ。
衣装負けしているのは百も承知だ。しかしせめて気持ちの上では負けないようにと、由惟はピンと背筋を伸ばして気合いを入れた。
仮に身代わりがバレてしまっても報酬がもらえるとはいえ、大金をもらう以上、与えられた役目はきっちりこなしたい。
戦場に赴くような緊張感でお見合い相手を待ち構えていると、外から声がして襖がガラリと開いた。