無愛想な天才外科医と最高難度の身代わり婚~甘く豹変した旦那様に捕まりました~【職業男子×溺愛大逆転シリーズ】
 田部の後遺症は手の痺れのほかに、高次脳機能障害もある。前頭葉が一部損傷した影響で感情のコントロールが効かなくなり、必要以上に怒りっぽくなっているのだ。

 ベッドの横に立った真紘は膝を折り、唾を撒き散らしながら怒鳴り続ける田部を宥めようとした。が、田部の剣幕の烈しさは一向に鎮火の気配を見せない。
 言葉にならない言葉を喚く田部は、怒りの矛先を真紘に向けたのか、ギッと睨んできた。スクラブの襟首を力任せに掴まれると、衝撃で首を持っていかれそうになった。
 
「大体、おまえのせいなんだよ!!おまえが手術に失敗しなけりゃ、俺はこんな無様な醜態を晒さずに済んだんだ!!」

 その言葉に、己の表情が抜け落ちた。
 手術は間違いなく成功した。田部のそれは言いがかりにすぎない。

 だが一方で、疑り深いもう一人の自分が、もっと他のアプローチがあったのではないかと囁いてくる。
 ――あの時、もっと早く処置ができていれば結果は違ったかもしれない。現実的には不可能な"もしも"が頭をもたげてくる。

(いや。俺は最善を尽くしたはずだ)

 自身にそう言い聞かせて、なんとか平静を保った。悠然たる態度を装い、己の胸ぐらを掴む田部の手を丁寧にほどく。

「田部さん、落ち着いてください」

 その後も言葉を重ねたが、田部の興奮は収まらなかった。
 最終的には鎮静剤を打ち、眠った田部の状態を確認した後、ナースと田部の妻を連れ立って病室を出た。
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