無愛想な天才外科医と最高難度の身代わり婚~甘く豹変した旦那様に捕まりました~【職業男子×溺愛大逆転シリーズ】
「ただいま」

 玄関扉を開けた時にそう言うようになったのはいつからだろう。
 冷たくあしらおうが無視しようが、いつでも「おかえりなさい」と口にする穂乃花にいつの間にか絆され、自分も挨拶をするようになった。屈辱的なはずが、存外そう悪い気分ではないのが不思議だ。

 しかし今日はいつもの穂乃花の出迎えがなかった。

「穂乃花?」

 よく見るとリビングに電気がついていない。出かけているのだろうか。
 まあ、知ったことではない。穂乃花には自由に出かけていいと伝えているし、そもそも自分はあの女に関心を抱いているわけではないのだから。

 そのうち帰ってくるだろうと思っていたが、風呂に入り終えてもなお、穂乃花は帰ってこなかった。
 
 冷蔵庫には既に穂乃花が作ったであろう夕飯が整列している。覗き込んだ鍋には、ゴロゴロと野菜が入ったビーフシチューがなみなみ作られていた。

「作りすぎだろ」

 思わず笑ってしまう。仕事中からずっと感じていた肩の強張りがふっと抜けた瞬間だった。
 
 なにかにつけ大量に野菜を食べさせようとしてくる穂乃花のまじめくさった顔が脳裏に浮かぶ。
 自分は元々胃が大きい方ではないのだ。そんなに大量に食えるはずがない。一体いつになったら、穂乃花は理解するんだろうか。
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