無愛想な天才外科医と最高難度の身代わり婚～甘く豹変した旦那様に捕まりました～【職業男子×溺愛大逆転シリーズ】

特別な言葉

　真紘がヤキモキしながらビーフシチューを温める少し前のこと。

　唐突に穂乃花の母・みどりから呼び出された由惟は、ドキドキしながら待ち合わせ場所のカフェに向かっていた。
　
　今の由惟は、穂乃花の代役としてみどりに雇われているのだ。いわば雇用主とも呼べる存在からの呼び出し。緊張しないはずがない。

「ごめんなさいね。突然呼びつけちゃって。最近、成澤くんとはどう？うまくやってる？」

　なんてことはない近況伺いに肩の力が抜ける。由惟は、奢ってもらったカフェラテを飲みつつ曖昧に頷いた。

「そうですね。ちょっとずつ打ち解けられてはいるかな……と」

　その歩み寄りは亀の速度で、やっとまともに話せるようになったくらいだが、余計なことは言わないでおいた。
　みどりが心底嬉しそうに相好を崩しているところを見ると、その判断は正しかったらしい。

「あら、よかったわぁ。いきなり同居なんてお願いしちゃったでしょ？大丈夫かしらってずっと心配してたのよ。由惟さん、連絡もあんまりしてくれないから」
「ごめんなさい。スマホの使い方がいまいち慣れなくて、まだ苦手で」
「ああ。ずっとガラケーだったって言ってたものね。今どき珍しいわね。お世話になってたご家族の方が厳しかったとか？」
「あはは……まあ、そんな感じです」

　横井家を出ると同時に解約したガラケーは、中学生の頃から使っていたものだ。通信料を自分で支払わなければならかったので、ほとんど使っていなかった。高校卒業と同時に友人とも縁が切れてしまっており、由惟が誰かと連絡を取り合うことは皆無だ。

　連絡が取れないと困るからと、みどりから引っ越しを機にスマホを与えてもらったが、突然意識が変わるわけもなく、誰とも連絡を取らずにほぼ放置している。