無愛想な天才外科医と最高難度の身代わり婚~甘く豹変した旦那様に捕まりました~【職業男子×溺愛大逆転シリーズ】
「もしかしてこのピンセットで針を摘んで糸を通すんですか?」
「そうだよ」
「無理ですよね?まず針を掴むところからして無理です」
「最初っから諦めるなよ」
「だって、こんなの……」

 由惟の背後に回った真紘が、机の縁に手をついて由惟の手元を覗き込んだ。
 
 試しに顕微鏡を覗き込んでみたが、真紘との距離の近さに動揺して視点が定まらない。ドキドキと鳴り響く鼓動が体を揺らすせいで、手が必要以上に震える。針を掴もうとするピンセットは空を捉えるだけで、スタート地点にすら立てない。

「全っ然ダメです!」

 ついに音を上げてピンセットを手放すと、耳元から軽快な笑い声が聞こえてきた。振り返ると、すぐそばに真紘の顔があって心臓が止まるかと思った。

 いつもより濃く見える黒色の瞳に、そのまま吸い込まれそうになる。少し身じろぎをしたら、真紘の高い鼻に自分の鼻がぶつかってしまいそうだ。

 まるで時が止まったかのように、見つめ合ったまま動けなくなる。長く伸びた真紘のまつ毛が、一筋一筋くっきり見える。
 
 互いの顔が自然と近づいて、由惟はゆっくり目を閉じた。
 直後、唇に確かな熱を感じて、頭の奥が痺れたようにぼうっとする。

 触れるだけのキスが終わった後も、まだ痺れは残っていた。もやがかった意識の中で、頬を撫でる真紘の冷たい手の感触だけが鮮明に感じ取れた。
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