無愛想な天才外科医と最高難度の身代わり婚~甘く豹変した旦那様に捕まりました~【職業男子×溺愛大逆転シリーズ】
「……明日だけど。穂乃花の予定がなければどっか出かけるか」

 真紘の艶のある声が鼓膜を震わせる。
 それってもしかして、デートということになるんだろうか?
 初めて会った時からしたら信じられないお誘いだ。頬がゆるむのを止められない。
 ぽわぽわした頭で小刻みに頷くと、ご褒美みたいに頭を撫でられた。

 もっと触れてほしい。そう思っていたのに、真紘の手はあっさりと離れてしまった。続いて何もなかったように真紘が体を起こすので、肩すかしを食らったような気になる。

「もう寝るか」
「は、はい……」

 もっと一緒にいたい、なんて言えるはずがなかった。
 真紘はそのまま部屋を出て、由惟だけが一人残された。

 パタンとあっけなく閉まった扉を茫然と見つめながら、由惟は先ほど触れた感触を思い出すように自分の唇を指でなぞった。
 一度だけのキスだった。あれは、どういう意味なんだろう?
 考えたところで答えは出ない。

(でも、意味なんてなかったのかも……)

 顔が近くにあったから衝動的にキスをしただけかもしれない。きっとそうだ。
 もし仮に真紘が好意を抱いてくれていたなら、一度だけのキスでは終わらなかったと思う。ずっと昔に読んだ少女マンガでは、恋人同士になった二人は、情熱的に何度も何度もキスを繰り返していた。

 だからあのキスは、なんでもないキス。早くこの部屋から出て行かないと、真紘が眠れない。そう思うのに、鼓動が鳴り止まなくて。ついでに腰も抜けてしまって。由惟はしばらく椅子から立ち上がれなかった。
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