早河シリーズ第四幕【紫陽花】
エレベーターの扉が目的の階に到着した。細かなラメの入る白とネイビーの市松模様のタイルを敷き詰めたエレベーターホールが二人を出迎えた。照明に当たって床のラメがキラキラと光っている。
ホール前の廊下に小柄な女性が立っていた。彼女の顔をなぎさはつい数時間前に見たばかり。早河探偵事務所まで玲夏を迎えに来たマネージャーの山本沙織だ。
沙織は丁重な態度で早河となぎさを社長室に案内する。沙織に促されて二人は社長室のプレートがかかる部屋に通された。
『やぁ、早河くん。久しぶり』
シルバーグレーの髪をオールバックに整えた紳士が革のソファーに座って待っていた。
彼は玲夏を含めた大物俳優が多く所属する芸能プロダクション、エスポワールの社長の吉岡繁。吉岡自身も四十代までは実力派で有名な役者だった。
『吉岡さん、ご無沙汰しています』
『そう固くならなくていい。まぁ二人とも座って』
早河となぎさはいかにも高級そうな革張りのソファーに腰を降ろした。向かいに吉岡が座っている。
『二人はコーヒーでいいかな? 山本くん、コーヒーを二つお願いね』
「はい」
内線で沙織がコーヒーの指示を出している。舞台俳優出身の吉岡は発声がハッキリしていて声に張りがある。
普通の声量で話をしていても彼の声は部屋に響いていた。
『さっそくだが、話は玲夏から聞いているね?』
『はい。玲夏に送られた手紙の差出人を突き止めて欲しい、とのことですね』
『うん、まぁそういうことだ。私から正式に君の事務所に依頼をするよ。もちろんタダ働きはさせない。調査にかかった料金はいくらでもうちの会社宛に請求してもらって構わない。その辺のことは山本くんと君の間で決めてくれ』
沙織が早河に一礼した。早河も沙織を一瞥して頭を軽く下げる。
『玲夏も今では有名女優の仲間入りだからね。愛しているだの、殺すだの、あの程度のファンレターなら毎日山ほど届いている。今回も今までと同様に特に気にすることでもないと思っていたんだが……』
『手紙の件とは別で何か気になることでもあるんでしょうか?』
普段はあまり言葉を濁さない吉岡が珍しく口ごもる様子を早河は怪訝に思う。
ノックの音の直後に社員が早河となぎさのコーヒーを運んで来た。コーヒーカップを二つ置いて社員が社長室を去るのを待って、吉岡が口を開く。
『玲夏を再来年公開予定の映画の主演にとオファーがあってね。今のところほぼ玲夏主演で決まりそうなんだが、その映画の主演オファーが玲夏に来た途端にうちの事務所が嫌がらせを受けるようになったんだ』
『嫌がらせ?』
『最初は大したことない、受付に生ゴミがバラまかれていたり白紙のファックスが大量に送られたりと言った子供のイタズラ程度のものだった』
早河は念のためになぎさにメモをとらせた。なぎさは手帳に吉岡の話を箇条書きでメモしていく。
ホール前の廊下に小柄な女性が立っていた。彼女の顔をなぎさはつい数時間前に見たばかり。早河探偵事務所まで玲夏を迎えに来たマネージャーの山本沙織だ。
沙織は丁重な態度で早河となぎさを社長室に案内する。沙織に促されて二人は社長室のプレートがかかる部屋に通された。
『やぁ、早河くん。久しぶり』
シルバーグレーの髪をオールバックに整えた紳士が革のソファーに座って待っていた。
彼は玲夏を含めた大物俳優が多く所属する芸能プロダクション、エスポワールの社長の吉岡繁。吉岡自身も四十代までは実力派で有名な役者だった。
『吉岡さん、ご無沙汰しています』
『そう固くならなくていい。まぁ二人とも座って』
早河となぎさはいかにも高級そうな革張りのソファーに腰を降ろした。向かいに吉岡が座っている。
『二人はコーヒーでいいかな? 山本くん、コーヒーを二つお願いね』
「はい」
内線で沙織がコーヒーの指示を出している。舞台俳優出身の吉岡は発声がハッキリしていて声に張りがある。
普通の声量で話をしていても彼の声は部屋に響いていた。
『さっそくだが、話は玲夏から聞いているね?』
『はい。玲夏に送られた手紙の差出人を突き止めて欲しい、とのことですね』
『うん、まぁそういうことだ。私から正式に君の事務所に依頼をするよ。もちろんタダ働きはさせない。調査にかかった料金はいくらでもうちの会社宛に請求してもらって構わない。その辺のことは山本くんと君の間で決めてくれ』
沙織が早河に一礼した。早河も沙織を一瞥して頭を軽く下げる。
『玲夏も今では有名女優の仲間入りだからね。愛しているだの、殺すだの、あの程度のファンレターなら毎日山ほど届いている。今回も今までと同様に特に気にすることでもないと思っていたんだが……』
『手紙の件とは別で何か気になることでもあるんでしょうか?』
普段はあまり言葉を濁さない吉岡が珍しく口ごもる様子を早河は怪訝に思う。
ノックの音の直後に社員が早河となぎさのコーヒーを運んで来た。コーヒーカップを二つ置いて社員が社長室を去るのを待って、吉岡が口を開く。
『玲夏を再来年公開予定の映画の主演にとオファーがあってね。今のところほぼ玲夏主演で決まりそうなんだが、その映画の主演オファーが玲夏に来た途端にうちの事務所が嫌がらせを受けるようになったんだ』
『嫌がらせ?』
『最初は大したことない、受付に生ゴミがバラまかれていたり白紙のファックスが大量に送られたりと言った子供のイタズラ程度のものだった』
早河は念のためになぎさにメモをとらせた。なぎさは手帳に吉岡の話を箇条書きでメモしていく。