早河シリーズ第五幕【揚羽蝶】
 最近のアルバムにはいつも隼人の隣に美月がいる。隼人の優しい眼差しに守られて、美月が笑っていた。

{自分が情けなくてさ……。こんなに無力だったんだなって}
「……うん。ホント情けないなぁ。美月ちゃんを守れるのは隼人だけなのよ? 隼人が弱っていてどうするの。しっかりしなさい」

麻衣子の一喝が響いた。電話の向こうで隼人が笑っていることが息遣いで伝わる。

{なんか懐かしいな。昔っから何かあるとこうやって麻衣子が叱ってくれた}
「ふふっ。そうだね。サッカーの試合の前とかね。隼人って顔に似合わずビビりなところあるもん」
{顔に似合わずは余計}
「自信家の顔してるくせに」

 隼人や美月と今年の正月に初詣に行った時の写真が出てきた。晴れ着を着て隼人と寄り添う美月は麻衣子にとっても妹のような大切な存在だ。

(隼人が好きになったのが美月ちゃんだったから、隼人を諦める決心がついたんだからね)

名前の通り、美月はみんなにとっての優しい月だ。彼女が照らしてくれるから、隼人や麻衣子は笑顔でいられる。

{俺が女の前で弱音吐くのは麻衣子だけだな。美月の前ではどうしても格好つけちまうんだ}
「たまには美月ちゃんにも弱いとこ見せてもいいんじゃない? 隼人のカッコ悪いところ見たって、あの子は隼人を嫌いにならないよ」
{そうかな……}
「美月ちゃんが隼人の外見だけで好きになってくれたと思うならずいぶんな自惚れよ? そりゃあ、隼人は普通の男よりはちょーっとだけ見た目はいいですけどね」
{ちょっとだけかよ}

きっと今頃は拗ねた顔をしているであろう隼人の顔を想像して麻衣子は口元を上げた。

「まぁまぁ。でも格好いいだけの隼人じゃない、カッコ悪い隼人を知っても美月ちゃんは隼人を受け入れるよ。隼人だってあの人……佐藤さんのこと受け入れる覚悟で美月ちゃんを好きになったんでしょう?」
{ああ。美月が佐藤を好きなままでもいいって思ってた。実際は言うほど簡単じゃなかったけどな}
「簡単じゃないよね。隼人はその簡単じゃないことをやってのけてるの。今ね、アルバム見てるんだ。隼人の隣にいる美月ちゃんは幸せそうに笑ってる。美月ちゃんの笑顔は隼人がいるからなんだよ。隼人があの子を笑顔にしているの。それって凄いことだよ」

 美月の笑顔を引き出しているのは隼人だ。それは紛れもない真実。月を笑顔にするのは、いつだって太陽だ。

{麻衣子は凄いな。なんか元気出てきた。さすが心理カウンセラーの先生だ}
「これくらいお安いご用です。朝になったらなぎさに連絡してみるね」
{ありがとう。麻衣子}


 ねぇ、本当に凄いのは君だってこと、
 きっと君は気付いていない。

 君はいつだってヒーローなんだよ。

 私にとっても、あの子にとっても。
 格好いいヒーローなんだよ。

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