早河シリーズ第五幕【揚羽蝶】
『3年前に佐藤に殺された小説家の間宮誠治と沢井あかりは昔から親しい仲だったそうです。大学生だった俺達があの夏に間宮先生とイベントをすることになったのも、そもそもは沢井を介してのことでした。間宮先生の死体が発見された時、沢井は泣いていたんです。……“笑いながら”』
早河もなぎさも、隼人が何を言っているのか一瞬理解できなかった。
理解した時に襲われる寒気。それは人間の裏側を見てしまった時の寒々しさだ。
『沢井のその顔を見たのは俺だけだと思います。涙を流しながらも口元は笑っていた。無責任なことは言えませんが、あの顔は間宮先生の死を喜んでいるように感じました。間宮先生を殺したのは佐藤です。だけど沢井は間宮先生が殺されることを知っていたとしか思えない。3年前からずっとそれが引っ掛かっていて……』
ただの興味本位であれば断るつもりでいた隼人のもうひとつの依頼は、思わぬ方向に転がった。間宮誠治殺害に関しては早河も3年前から疑念を抱いている。
佐藤が間宮を殺したのは本人が上野警部の前で殺人を認めているのだから間違いない。
しかし、間宮の体内から検出された睡眠薬やペンションに仕掛けられた盗聴器の問題は棚上げされたまま、事件は被疑者死亡で葬られた。
佐藤には協力者がいたのではないか。それは早河も考えていたことだ。
『わかりました。沢井さんのことも調べてみましょう。ただし、アゲハの正体を掴むことを優先しますので、沢井さんの件は少し時間はかかるかもしれません』
『かまいません。よろしくお願いします。昨夜、変な女に探偵に依頼しろと言われた時は半信半疑でしたけど、ここに来てよかったです』
『変な女?』
『バーで飲んでいる時に女に話しかけられたんです。美月を助けたいなら麻衣子の友達が助手をしてる探偵に依頼しろって』
早河は眉をひそめた。なぎさも困惑している。
『その女性は名前は名乗りましたか?』
『名前……なのかは知りませんが、“クイーン”とだけ。香道さんに聞けばわかると言っていたので、香道さんのお知り合いじゃないかと思ったんですが』
隼人がなぎさに目を向けた。なぎさは早河と目を合わせ、頷く。
『寺沢莉央だな』
「でもどうして莉央が木村さんをここに?」
二人のやりとりは隼人には意味のわからない会話だ。なぎさが隼人に向き直った。
「木村さんにここに来るように言った女性は多分、私の高校の友人です。彼女は麻衣子とも友達でした」
『だから麻衣子のことも……』
隼人は納得した表情だが早河となぎさは浮かない顔をしている。次は早河が口を開いた。
『その女性の名前は寺沢莉央。彼女はカオスのクイーンなんですよ』
『カオスって佐藤がいた組織の……美月に手紙を送りつけたアゲハって奴が関係している組織ですよね』
『そうです。寺沢莉央は組織の幹部。彼女が何故、木村さんに接触したのかはわかりませんが……』
三人の間に無言の時が訪れた。アゲハの目的、カオスの目的、莉央の目的……現時点ではわからないことだらけだった。
早河もなぎさも、隼人が何を言っているのか一瞬理解できなかった。
理解した時に襲われる寒気。それは人間の裏側を見てしまった時の寒々しさだ。
『沢井のその顔を見たのは俺だけだと思います。涙を流しながらも口元は笑っていた。無責任なことは言えませんが、あの顔は間宮先生の死を喜んでいるように感じました。間宮先生を殺したのは佐藤です。だけど沢井は間宮先生が殺されることを知っていたとしか思えない。3年前からずっとそれが引っ掛かっていて……』
ただの興味本位であれば断るつもりでいた隼人のもうひとつの依頼は、思わぬ方向に転がった。間宮誠治殺害に関しては早河も3年前から疑念を抱いている。
佐藤が間宮を殺したのは本人が上野警部の前で殺人を認めているのだから間違いない。
しかし、間宮の体内から検出された睡眠薬やペンションに仕掛けられた盗聴器の問題は棚上げされたまま、事件は被疑者死亡で葬られた。
佐藤には協力者がいたのではないか。それは早河も考えていたことだ。
『わかりました。沢井さんのことも調べてみましょう。ただし、アゲハの正体を掴むことを優先しますので、沢井さんの件は少し時間はかかるかもしれません』
『かまいません。よろしくお願いします。昨夜、変な女に探偵に依頼しろと言われた時は半信半疑でしたけど、ここに来てよかったです』
『変な女?』
『バーで飲んでいる時に女に話しかけられたんです。美月を助けたいなら麻衣子の友達が助手をしてる探偵に依頼しろって』
早河は眉をひそめた。なぎさも困惑している。
『その女性は名前は名乗りましたか?』
『名前……なのかは知りませんが、“クイーン”とだけ。香道さんに聞けばわかると言っていたので、香道さんのお知り合いじゃないかと思ったんですが』
隼人がなぎさに目を向けた。なぎさは早河と目を合わせ、頷く。
『寺沢莉央だな』
「でもどうして莉央が木村さんをここに?」
二人のやりとりは隼人には意味のわからない会話だ。なぎさが隼人に向き直った。
「木村さんにここに来るように言った女性は多分、私の高校の友人です。彼女は麻衣子とも友達でした」
『だから麻衣子のことも……』
隼人は納得した表情だが早河となぎさは浮かない顔をしている。次は早河が口を開いた。
『その女性の名前は寺沢莉央。彼女はカオスのクイーンなんですよ』
『カオスって佐藤がいた組織の……美月に手紙を送りつけたアゲハって奴が関係している組織ですよね』
『そうです。寺沢莉央は組織の幹部。彼女が何故、木村さんに接触したのかはわかりませんが……』
三人の間に無言の時が訪れた。アゲハの目的、カオスの目的、莉央の目的……現時点ではわからないことだらけだった。