早河シリーズ第五幕【揚羽蝶】
懐疑の目を向けながらも、市川は二人を応接室に通した。渡された早河の名刺を珍しげに見た市川は手入れの行き届いた長い黒髪を掻き上げる。
「佐々木さんのことで探偵さんにお話できるようなことは何もありませんよ」
『佐々木さんがここをお辞めになった経緯を教えていただけますか?』
「それは答えなければならない質問ですか?」
切れ長の奥二重の瞼が早河を捉える。彼女のキツイ相貌は近年の日本では好まれにくいが、海外では人気がありそうな系統だ。
パリコレのモデルには市川部長のような顔立ちのアジアモデルも多い。
『できればお答えいただきたい質問です。佐々木さんはもうこちらを退職している。もしも何かあっても市川さんやこちらの会社が迷惑を被ることはないと思いますよ』
早河と市川の睨み合いが数秒続いた。負けたのは市川部長だ。彼女は肩を落として部下が出したコーヒーに口をつけた。
「佐々木さんは無断欠勤が続いたので解雇しました」
『無断欠勤はいつ頃から?』
「先月の……ゴールデンウィーク明けかしら。彼女は元々仕事に意欲的な人ではなかったので前にも何度か無断欠勤をしたことがあるんです。だからまたか……という感じでしたけど、今回は連絡も取れなくて5月はほとんど欠勤でしたからさすがにね。先月末で辞めてもらいました」
『佐々木さんが無断欠勤をする理由を市川さんはどのようにお考えですか?』
市川部長は皮肉混じりの微笑を返す。
「そんなこと知りません。部下のプライベートには介入しない主義なんです。でも佐々木さんの場合は深く介入しなくてもわかります。あれは男ね」
『男……ですか?』
「好きな男ができると四六時中、男のことしか考えない恋愛脳な女っているでしょう? 私はああいう女が嫌いなの。十代ならまだ可愛らしいけれど、いい年の大人の女が男に人生支配されて何が楽しいのかしら」
なぎさは自分のことを指摘されているようでドキッとした。好きな男ができると24時間その人のことばかり考えてしまう傾向は自分にも当てはまる。
それが悪い事だとは思わないが、それだけではいけないとも思う。特に、大人は。
『つまり佐々木さんは男にのめり込むタイプだったと?』
「ええ。前の無断欠勤の時も会社を休んでグアムだかハワイだかに男と一緒に行った写真をブログに載せていました。仕事もしないでネットの更新と男遊びには熱心なんだから笑っちゃうわね」
(佐々木里奈もブログをやっているのか。そのブログにヒントがあるかもしれない)
「佐々木さんのことで探偵さんにお話できるようなことは何もありませんよ」
『佐々木さんがここをお辞めになった経緯を教えていただけますか?』
「それは答えなければならない質問ですか?」
切れ長の奥二重の瞼が早河を捉える。彼女のキツイ相貌は近年の日本では好まれにくいが、海外では人気がありそうな系統だ。
パリコレのモデルには市川部長のような顔立ちのアジアモデルも多い。
『できればお答えいただきたい質問です。佐々木さんはもうこちらを退職している。もしも何かあっても市川さんやこちらの会社が迷惑を被ることはないと思いますよ』
早河と市川の睨み合いが数秒続いた。負けたのは市川部長だ。彼女は肩を落として部下が出したコーヒーに口をつけた。
「佐々木さんは無断欠勤が続いたので解雇しました」
『無断欠勤はいつ頃から?』
「先月の……ゴールデンウィーク明けかしら。彼女は元々仕事に意欲的な人ではなかったので前にも何度か無断欠勤をしたことがあるんです。だからまたか……という感じでしたけど、今回は連絡も取れなくて5月はほとんど欠勤でしたからさすがにね。先月末で辞めてもらいました」
『佐々木さんが無断欠勤をする理由を市川さんはどのようにお考えですか?』
市川部長は皮肉混じりの微笑を返す。
「そんなこと知りません。部下のプライベートには介入しない主義なんです。でも佐々木さんの場合は深く介入しなくてもわかります。あれは男ね」
『男……ですか?』
「好きな男ができると四六時中、男のことしか考えない恋愛脳な女っているでしょう? 私はああいう女が嫌いなの。十代ならまだ可愛らしいけれど、いい年の大人の女が男に人生支配されて何が楽しいのかしら」
なぎさは自分のことを指摘されているようでドキッとした。好きな男ができると24時間その人のことばかり考えてしまう傾向は自分にも当てはまる。
それが悪い事だとは思わないが、それだけではいけないとも思う。特に、大人は。
『つまり佐々木さんは男にのめり込むタイプだったと?』
「ええ。前の無断欠勤の時も会社を休んでグアムだかハワイだかに男と一緒に行った写真をブログに載せていました。仕事もしないでネットの更新と男遊びには熱心なんだから笑っちゃうわね」
(佐々木里奈もブログをやっているのか。そのブログにヒントがあるかもしれない)