早河シリーズ第五幕【揚羽蝶】
 車内でなぎさは持参したノートパソコンに佐々木里奈のブログのURLを打ち込み、接続した。

「佐々木里奈のブログ出てきました。最近はあまり更新していませんね。6月の更新はゼロです」
『最後に更新した日付は?』

早河の車は市川部長に教えてもらった里奈の住所に向かっている。

「今年の5月29日です。明鏡大の事件の翌日ですね。記事のタイトルは“今日のコーディネート”」
『はぁー。どいつもこいつもよくやるなぁ。人の生活なんてネットには書けないことの方が多いと思うが』
「良い面しかネットには公開しないんですよ。自分の人生の良い面だけを切り取ってネットに載せる。それがネットでの自己プロデュースなんです。……うわぁ……」

記事を見ていたなぎさが声を上げた。

『どうした?』
「29日のブログに載せてるこのサルエルパンツ、記事に服のブランドの名前も書いてあるんですけど、ここのブランドけっこう高いところなんです。あの会社、お給料良さそうだったしなぁ」

 早河にはサルエルパンツというものが具体的には思い浮かばない。女の服の名称なんてわからないものだらけだ。

『高い服を買えるくらいには金には困ってないってことか。だが今はあの会社を辞めてる。次の仕事をしてるかはわからないが、そろそろ金銭的に苦しくなる頃だ』
「そうですね。まだ生活はできても服や娯楽に使えるお金は極端に減るでしょうね」

 なぎさも出版社を辞めて早河の事務所で雇われるまで無職の期間が続いた。

 実家に身を寄せていれば無職期間でも衣食住のある程度の生活は保証されるが、独り暮らしとなるとそうはいかない。
さらに問題なのは娯楽に回る資金がなくなることだ。この東京で生きていくなら尚更、無収入は深刻だ。

 里奈が次の仕事をしているのならその職場を探す必要があるが、彼女が仕事をしているようには思えなかった。

「あの会社、服装規定は緩いようには見えなかったけど……」
『服装規定?』
「化粧品会社でもやっぱり会社の身だしなみのマナーはあると思います。名のある大手なら余計に。でも最近の……5月の佐々木里奈の写真が載っていますが、髪色が明るいんです。13トーン以上はあるんじゃないかと」

 信号待ちになり、早河はなぎさのノートパソコンの画面を覗いた。5月20日の記事に里奈の顔が載っている。

子猫のような丸い瞳が印象的な可愛らしい顔立ちだ。ギャル系と言うのだろうか、男がチヤホヤしたがる顔立ちだった。
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