早河シリーズ第五幕【揚羽蝶】
 里奈の部屋は広めのワンルーム。同じワンルームマンションでもなぎさの部屋よりも広い。
カーテンは開けられていて、室内は目視できる明るさだった。なぎさと矢野は散り散りに部屋を物色する。

「ここのゴミ出しは月曜なので今日がゴミの日ですね。でもゴミ出しはされていませんね」

キッチンを見たなぎさがイヤモニ越しに早河に報告する。

{次は衣類だ}
「はい」

対面式のキッチンの向こうは洋間だ。矢野がベッド脇のサイドテーブルの引き出しを開けて中を漁る。

『預金通帳、ノートパソコンや充電器の類い、すべて見当たらないね。全部持って出てるのかも』
「この部屋にしばらく帰らないつもりで出掛けているんですかね……」

 ウォークインクローゼットを開けた。高そうなコートやジャケット、ワンピース、下段には靴箱が積まれている。

「冬物はクローゼットの中、タンスにもかなりの数の服が残っています。……あ」

洋服ダンスの小さな引き出しを開けたなぎさの表情が変わる。

{どうした?}
「服の多さに対して下着は少ない。こんなに服を持っているのに下着には凝らないなんておかしいです。なんだろう……必要な数だけごっそり抜き取ったって感じがします」

 ブラジャー、ショーツ、キャミソール、ベビードール、色とりどりの下着が折り畳まれて収納されている。
下着にはこだわりのない女性ならこの程度の枚数で事足りるだろうが、佐々木里奈は下着もこだわりがありそうに見える。その証拠に、少々刺激的な見た目の下着も数枚あった。

{なぎさから見て残ってる下着は何日分だ?}
「これだと3、4日分ですね。それにその……生理用の……えっと、その……」
{ああ、わかった。生理の時に履くパンツか}
「そんなにハッキリ言わないでください! もう!」

横で二人のやりとりを聞いていた矢野が苦笑いしている。

{なんで怒るんだよ}
「怒っていません! だから、その、どんな女性でも生理の時のショーツは数枚用意しておくと思うんです。それがどこにも見当たらなくて。生理用ショーツを使わない人もいるとは思いますけど」
{もしなぎさが旅行に行くなら、生理用のパンツも一緒に持っていくか?}
「人にもよりますね。旅行の日程が生理予定日に当たらないなら荷物になるから私は持っていきません」

 自分の生理事情を話している気分になって顔が熱い。いつが生理か、なんて気にするのは性交をする関係にある男だけだ。
早河に生理事情を知られてしまったような気がしてさらに恥ずかしくなる。
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