早河シリーズ第五幕【揚羽蝶】
 愛してると囁いて
 照れ笑いする君を
 永久《とわ》に守り続けたい

 満月の夜 重なるふたつの影
 無垢な寝顔の君を抱きしめ
 ただひとつの願いを月に捧げる

 願わくはずっと俺の隣で
 君に微笑んでいてほしい

(full moon/UN-SWAYED)

       *


 朦朧とする意識の片隅で彼女の声を聞いた気がした。


 ──“大丈夫よ。あなたを死なせたりしないから”──


あの声は……そう、あの女だ。猫に似た瞳の不思議な女……


(ここは……)

 わずかに開けた視界の隅に美月の顔が見えた。泣きそうな顔をした美月が自分の名を呼んでいる。

(どうして美月が……これは夢か?)

声を出そうと思っても上手く発音できない。喉がとても渇いていた。手を動かすと腕に点滴のチューブが巻かれているのが見える。

「……隼人っ!」

 美月が隼人の手を握る。温かい、美月のぬくもりだ。

『……美月……こっちに……帰って来たのか……?』

やっとの思いで出した声はかすれて聞こえた。

「バカ……もう。心配したんだから!」

美月が泣いていた。最近は彼女の泣き顔しか見ていない。美月を笑顔にしたいのに泣かせてばかりだ。

『あーあ。隼人は美月ちゃんしか見えてねぇのかよ』

 聞き慣れた声がして隼人は視線を動かした。渡辺亮と加藤麻衣子、小さな頃からずっと一緒にいる幼なじみ二人の顔が見えた。

『……亮と麻衣子? お前らどうして……』
『お前、里奈に腹刺されて病院に運ばれたんだよ。丸2日、意識不明だったんだぞ』

渡辺の目が潤んでいる。麻衣子はハンカチで目元を押さえていた。

『えっと……今日って何日?』
『21日の日曜日。出血が酷くて輸血もしたんだぜ。お前の姉ちゃんから連絡もらった時は、女絡みでいつかはこんな日が来るかもって思ってたけど……過去の女遊びのツケだな。アホ隼人』

 渡辺のブラックジョークに隼人は苦笑いで返す。ジョークが言えるのも命があってこそだ。

『とにかく意識が戻ったことを先生に知らせないと……』
「亮、待って」

 ナースコールに手を伸ばした渡辺を麻衣子が止めた。赤い目をした麻衣子は視線を美月に向ける。
隼人に寄り添う美月の肩は震えていた。
麻衣子の意図を察した渡辺は掴んでいたナースコールを手放して意味深に笑う。

『俺ら外に出てるから。しばらく二人でいろよ。……病院であんまりイチャつくなよ?』

 最後に隼人の耳元で囁いた渡辺と麻衣子が病室を出て、隼人と美月の二人きりになる。

『美月……顔見せて』
「……嫌だ」
『見せろって』
「だって……泣いてて……すっごいブサイクだもん……」

 シーツに顔を伏せる美月の柔らかな髪に触れた。サラサラと指通りのいい彼女の髪を撫でていると、これが幻ではないと実感できる。

『泣いてる美月も可愛いから問題ない。……顔が見たい』

すすり泣く美月が顔を上げた。真っ赤に腫らした目から零れる涙さえも綺麗で、いとおしい。

『……今からカッコ悪いこと言うぞ』
「え?」

 呼吸や話をしたりすると傷口が痛んで苦しくなる。それでも今言わずにはいられない。

『俺の側に居てくれ』

隼人の言葉に涙でいっぱいになった美月の目が見開いた。

『美月がどれだけあの人のことを想っていてもいい。俺は美月と一緒に居たい。美月に隣に居て欲しい』
「こんな私でも……いいの?」
『こんな美月が俺は好きなんだよ。愛してる』

 またもう一度、君が俺を選んでくれるのなら、俺は君を二度と離さないよ
 俺の隣で笑う君を永遠に見ていたいから……
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