吾輩は幽霊である。
 そう思うて明け方の墓場に帰ってきた。 寝床を探さねば、、、。
幽霊というもの、昼間はのんびりだらりと寝ておるのじゃ。 中には寝らんと動き回っておるやつも居るらしいが、、、。
わしは疲れたでな 寝るぜよ。

 墓場の中を見回してみる。 一角はきれいに掃除されておるがまあどうよ。
草は伸びたい放題に伸びておるしあらあらガタガタやないかい。
 この墓場でもずっと前に殺しが有ったんじゃ。 8歳くらいの女子じゃったなあ。
やったのは遠い町のお巡りさんじゃった。 何でも解雇されたから腹癒せにやったんだとよ。
 殺された女子も飛んだ迷惑じゃったのう。 可哀そうに。
 そんでやなあ、そのお巡りさんは長いこと監獄に押し込められとった。
そりゃあそうなるわな。 庶民を守らなあかんやつが殺しをやったんじゃからな。
 やっと落ち着いたのはいいが、足元で何かが蠢いておる。 何じゃろう?
よく見るとそれはチョウチョの幼虫ではないかいな。 こんな所にも居るんかい。
まあいい。 命有る者を殺しはせん。
ファー、寝るぜよ。
そう思うてな、わしは墓石の陰で寝ることにしたんじゃ。

 ところがどっこい。 昼頃になると何だか賑やかな声が聞こえてくる。
墓参りに来たんじゃなあ。 墓石に水を掛けてゴシゴシと磨き上げる。 あれは痛いのう。
墓石というのは手か布切れで磨くもんじゃよ。 タワシなんかで磨くもんじゃないんじゃよ 分かるかな?
あんただって体をタワシで磨かれたら痛いじゃろう?
 それが済んだかと思いきや今度は線香を何本も立てておるわい。 煙たくて堪らんなあ。
そしてそしてお供えだの何だのと言って果物やら酒やら稲荷寿司やら何やら置いて拝んでおる。 お供えはいいけれどきちんと持って帰れよなあ。
 それを狙って荒らしに来るやつらが居るでなあ。 食べ散らかされてはこちらが迷惑じゃ。
文句はこれくらいにしてわしは寝るぞよ。
 そう思って寝たのはいいんじゃがまたまた、、、。 ジャバジャバと水が流れてくる。
かと思ったら何とも言えんような臭いがするでな。 (何じゃろう?)と思って見てみたら墓参りの連中が洗剤を振り撒いて墓石を洗っておる。
 「アホか。 そんなことをせんでも水で十分じゃ。」 言ってみても誰も聞いておらんでな。
頭に来たから束子を放り投げてやったら「魔法使いだあ!」って子供らが大騒ぎし始めた。
「何だ こいつらは?」 さっきの連中とは違う墓参り客のようじゃが、、、。
 そもそも墓参りのシーズンではないぞよ。 お彼岸でもあるまいに。
何だかんだと騒がしい墓場の中で結局は一睡も出来ぬまま夜を迎えてしまったんじゃよ。 ああ悔しい。
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