地雷カプブルー

 しょうがない。

 傘は輝星が座るベンチの隣に置いて、俺は先に教室に戻ろう。

 校舎まで走ったらずぶ濡れだろうな。

 でも今は体操服に着替えてある。

 午後の授業の前に制服に着替えればいいだけの話。


 傘をベンチに置こうとした時だった。

 伸びてきた輝星の手が、傘ではなく俺の手首をつかんだのは。


 ベンチに座ったままの輝星に手首を掴まれ、足が固まる。

 どういうことだと輝星を見れば、泣きそうな顔の輝星と視線が絡んだ。
 

 「……輝星」

 「嫌いだ! 大っ嫌いだ!」


 俺を嫌いなことはわかっているから、離してくれ。

 手を振り払おうとしても、輝星は絶対に離さないと言わんばかりの力で握りしめてくる。


 「もうほんとヤダ……こんな自分大嫌い……消えていなくなっちゃえばいいのに……」


 うつむいた輝星は急に声を震わせ、泣いているのか鼻をすすりだした。


 「自分のことを大嫌いだなんて思わないで欲しい」


 今のは俺の心からの願いだ。

 輝星は俺が心底愛した、たった一人の人間なんだから。


 諭すようになだめてはみたが、俺の言葉に説得力はない。

 俺だって自分のことが嫌いだ。

 拒絶して傷つけることでしか輝星を守れない無力な自分なんて。
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