名前
生まれたことに意味はないなんて冷めたことを言っていた志摩が、死ぬ間際に私の手を握って『幸せだった』と言ってくれた。
『もっと長く生きて、お嬢のそばにいたかった』
そう泣いてくれたのが、なにより嬉しかった。
「今までずっと志摩に振り回されてきたから、最後の最後に勝てた気分だよ」
私が笑うと、後藤さんも一緒に笑った。
「強くなったね。桜子ちゃん」
「まぁ、ひとりじゃないから」
うなずいて自分のお腹を見下ろす。
志摩が生まれてきた意味は、確かにここにある。
この先たくさんの苦労をするかもしれないけれど、この子は私の生きる意味にもなる。
視線を上げると、煙突から出た煙がまっすぐに空にのぼっていくのが見えた。白い煙は次第に薄くなり、青空に溶けていく。
「ね、後藤さん。子供が生まれて落ち着いたら、目立たない場所に刺青いれたい」
私がそう言うと、後藤さんが首を傾げた。
「ふぅん。どんな刺青?」
「世界一かっこよくて、でもバカな男の名前」
『名前』 END