ルイーズの献身~世話焼き令嬢は婚約者に見切りをつけて完璧侍女を目指します!~

 ルイーズは気持ちを固めると、男爵に挨拶をした。

「お久しぶりです。本日はいかがなさいましたか」

「久しぶりだね。今日は突然の訪問ですまないね。実は、婚約に関することで話があって伺ったのだよ」

「婚約の話……ですか」

 ルイーズの問いに答えるように、オスカーが言葉を引き継いだ。

「ルイーズ、ごめんね。僕は、どうしても君を一人の女性として見ることができなくて……。僕は嫡男だから、それでは困るだろう? これから先も、その思いは変わらないと思うんだ。だから、婚約を解消したいと思ってる」

 オスカーは金髪碧眼だ。世間一般の美男子の部類に入るのだろう。きっと、自分でも自覚しているはずだ。それでも、中身が残念すぎる。

(——こんな無神経な人だったかしら)


 ルイーズの顔には、悲しみの代わりに呆れた表情が浮かんでいた。

 
 ルイーズは、オスカーから視線を外して父親を見る。困惑してはいるが、仕方がないという表情だ。

 仲の良い父親たちが結んだ婚約。父親の曖昧な態度を少し残念にも思うが、浮かれた様子の幼馴染との婚約を続ける気持ちはさらさらない。ルイーズは、この婚約に終止符を打つ覚悟をした。

「婚約についてのお話はわかりました。私としては、契約を無効としていただいてかまいません。ですが、白紙ではなく、解消でよろしいのでしょうか」

 婚約解消になれば慰謝料が発生する。これを機に両家に溝ができてしまうのはどうしても避けたい。ルイーズは、ふと弟の姿を思い出した。大事な弟が、将来困ることのないように良好な関係を保っておきたい。

「ルイーズちゃんありがとう。愚息が本当に申し訳ない。こちらとしても、婚約は白紙にしていただきたいと思っている。ルーベルト、どうだろうか」

「ああ、そうだな。こちらとしては、ルイーズが納得しているならそれでいい」

 男爵は頭を下げ、息子の不義理を何度も詫びた。普段は義理堅い男爵だが、息子には甘いようだ。
しかし思ったよりも早い段階で話がまとまったことに、ルイーズは安堵した。

 これで一件落着かと思いきや、オスカーが意味不明なことを叫びだした。その場にいるの者たちは、何事かと一斉に彼に目を向けた。

「父さん! 白紙じゃだめだ! 解消か破棄じゃないと!!」

「っ! お前は一体何を言っているんだ!! 自分が身勝手な要求をしているにもかかわらず、ふざけたことを抜かすな! いい加減にしろ!!」

 激怒した男爵が、オスカーを怒鳴りつけた。男爵は、それでも反省しないオスカーを、馬車に乗せておくようにと侍従に連れて行かせた。

 ルーベルトとルイーズは固まったまま、そのやりとりを見守ることしか出来なかった。

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