戸籍ごと売られた無能令嬢ですが、子供になった冷徹魔導師の契約妻になりました
 シルファは今日の仕事を振り返りつつノートにまとめていく。

 新しい知識を吸収するのがこんなに楽しいなんて。

 継母に学ぶ機会を奪われたあの日諦めたものを取り戻すように、入門書に没頭した。

 そして定時を直前に控え、エリオットがようやく執務室に戻ってきた。


「お疲れ様です。って、何かありましたか?」


 扉付近まで出迎えると、いつも澄まし顔のエリオットの表情に疲労の色が滲んで見えた。


「ああ……どうやらルーカス様とシルファ様の結婚の知らせが届いたようで、魔塔は今その話で持ちきりです。興味本位で地下のメンテナンス部を覗く輩も多く、少し沈静化の手伝いをしてきました」

「ええっ、サイラス大丈夫かしら」

「ああ。彼にはしばらく一つ下の階にある私の研究室を貸し与えることにしました。毎回魔導具を地下まで運ぶのも大変ですしね。彼も仕事に集中できる環境の方がいいでしょう」


 シルファの事情にサイラスを巻き込んでしまったと申し訳ない気持ちに苛まれたが、どうやらエリオットがうまく取り計らってくれたようだ。さすが仕事のできる男である。


「よかった……ご配慮いただきありがとうございます」

「いえ、仕事ですから」


 そうは言いつつも、眼鏡を押し上げるエリオットはどこか照れているようにも見える。
 第一印象は無表情な隙のない人だと思ったのだが、存外表情豊かなのかもしれない。


「デイモンの様子はどうだった」


 突然ルーカスが話に入ってきて、述べられた名前にドキリとする。

 此度の婚姻の話は、執拗にシルファを囲おうと誘ってきたデイモンからすれば面白くない話に違いない。




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