戸籍ごと売られた無能令嬢ですが、子供になった冷徹魔導師の契約妻になりました
「いえ、それが大人しいものでしたよ。騒めく職員たちを落ち着かせるように寛容に振る舞っていましたし」

「不気味だな」

「まあ、元々外面はいい男ですから」


 デイモンは人目があるところではシルファに言い寄ることはしなかった。
 せいぜいメンテナンス部の部屋の中か、シルファと二人きりになった時だけ、肩や手に触れたり、甘い言葉を囁いたりしてきた。

 その時のことを思い出してゾクリと背筋が凍る。


「まあ、当面は色々と詮索する奴も出てくるだろう。デイモンも流石に諦めるとは思うが、極力接触しない方がいい。シルファには窮屈な思いをさせるが、ほとぼりが覚めるまでは最上階で過ごしてもらう」

「はい、ありがとうございます」


 シルファとしてもその方がありがたい。ルーカスに必要以上の迷惑をかけないためにも、ここはお言葉に甘えることにする。

 その後、エリオットはキッチンに入って夕食の準備を始めた。シルファも手伝おうと足を向けかけて、グイッと腕を引かれてたたらを踏んだ。


「わっ」


 下にグッと引かれたため、危うくバランスを崩しそうになった。
 振り返らなくてもここにはルーカスしかいないので、腕を引いたのはもちろん彼だった。


「すまない。今日はエリオットに準備は任せて、今のうちに魔力の吸収を試してみたいのだが、いいだろうか」

「はい。分かりました」


 ルーカスに手を引かれたまま、デスク前のソファに連れて行かれる。二人並んで腰掛けると、ルーカスは両手でシルファの手を包み込んだ。

 まだ線が細く、シルファよりも小さな手。


 ――本当の彼の手は、一体どんな感じなのだろう。


 きっと骨張っていて、シルファの手なんてすっぽりと包み込んでしまうほど大きいはずだ。





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